新歌集から 瞬の移動
ヨシュアが池に飛び込んだ瞬間、瞬は走って自らも池に身を投げました。
こうなることを予想して、ずっとその時を、待っていたのです。
自らの脚が金色になって分解していくのを笑って見ながら、瞬は栄子のことを心に思い描きました。
それからどれくらいの時が経ったのか。
恐るべき速度で流れていく雲が徐々に速度を落として、太陽が昇り、落ち、また昇って、瞬は自分の腕が動くことに気づきました。立ち上がり、内から湧き上がる喜びに止めどない哄笑を行った後、周囲を見渡しました。
あっけにとられた、半裸の男女がいました。正確には女は一人で、男は四,五人ほど。
女が小娘もいいところで、男たちに服を引き裂かれている事に気づいて、瞬は笑顔を浮かべたまま男たちの後頭部を、濡れた砂の入った靴下で殴りました。武器として忍び持っていたのです。
三人頭を横から殴って脳挫傷を起こさせたところで、四人目が剣を取りました。瞬は武器を落としてパチンコで最後の一人の目を貫いて、その後剣を拾って頸動脈を掻き切りました。
--江戸の敵を長崎で討つというのは分かっているんだけどね。
瞬はそう呟くと、小娘に向かって虫も殺さないような笑顔を浮かべました。
小娘が震えて小便を漏らすのを無視して、瞬は周囲を再び見渡しました。
荒涼とした平野に、場違いな立派な馬車。英国風のようでしたが瞬には思っているよりずっと近代風だということしか分かりませんでした。
--治安は良くない。栄子ちゃんがこんなところに来ていないことを祈りたいが……
瞬はそこまで言って、すがすがしいため息をつきました。さっき初めて人を殺した人間とは思えない顔です。
--まあ、その時は、なにもかも殺して壊してやろう。それが僕のできる、精一杯のことだ。
そして表情を改めると、荒野を歩き出しました。
小学校の頃に歌っていた鼻歌を歌いながら歩いて行くと、先ほどの小娘が遠くからついてくるのが見えました。
瞬は頬を掻くと、しゃがみ込んで声をかけることにしました。
--お嬢さん、何かお困りですか。
日本語だめ、ローマン語だめ。英語は……
英語では反応がありました。娘は驚きと困惑と恐怖が混じった顔で、大きな胸を隠しながら声を上げました。
--お、お困りというか……このままだと、おら、死にそうなので。
--英語のなに訛かなぁ。まあいいか。なるほど。分かりました。僕も地理は不案内ですが、人里まで連れて行きましょう。どこかにあてはありますか。
瞬の落差の激しさに、娘はまた震えました。
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