奴隷の親

 長い寿命を利用して、奴隷を育てて売る事を商売にしていた男がおりました。孤児を拾っては育てて奴隷として売り、孤児を育てては奴隷として売り、そうして慎ましく生きていました。余り儲けるつもりがなかったというよりも、いつかは奴隷になる子供に、金を掛けすぎるからでした。

 今度は出荷しないでいよう、今度は出荷せずに死にましたと言おう、そう思いながら幾星霜、いつしか心の痛みもなくなって、何人出荷したのかもう分からなくなってしまった頃に、男は商談に出かけることになりました。

 商談に出かけた先の研究所で、男は自分が出荷した娘を見ました。壊れて自分が何かも分からない様子だったのを、持って帰りました。なぜそんなことをしたのか、自分でも不思議に思いつつ。


 娘は感覚器を交換、増幅されていました。遠くまで見え、遠くまで聞こえるようになった、ただそれだけで娘の心は壊れていました。見える世界、感じる世界が変わってしまい、一人だけ別の世界に行ったようになってしまったのです。

 男は感覚を制限するために鉄仮面を作ってかぶせ、また以前と同じように娘を慈しみました。


 数日してまた研究所から商談が来ました。男はてい良く頷くと、娘の手を取って逃げ出しました。


 その日とは今日だったのだ、なぜ僕はなぜこんな簡単なことができなかったのだろう。

 久しぶりに手にした自由は後悔や悲しみに彩られていましたが、男はそれを押し殺して鉄仮面の娘を連れて小高い丘の家に移りました。

 ここなら喧噪も遠く、何より追っ手が来ればすぐに分かる。男はそう呟いたあと、娘のために懸命に働き出しました。


 それから、どれくらいの時が流れたでしょう。

 娘がせがむので、男は丘の上に椅子を一つ置いて娘を座らせると、鉄仮面を取りました。

 娘は涙を一筋流した後、手で顔を覆って泣きました。


 男は丘の下を見ました。


 自分の外見はおかしくないかとしきりに尋ねる娘に、お前はいつも可愛いよと、なだめつつ、男は鉄仮面を娘にかぶせて、家に戻るように言いました。

 丘を上がってくる銃を持った刺客の姿には見覚えがありました。


--ああ、お前も戻ってきたのか。ユー……


 銃の弾丸は男の心臓を撃ち抜いて、娘のために植えていた白い花たちをを赤く染めました。


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