外つ歌 SHIKIKAMI(2)

 静日が気を失うと、黒い革ジャンのおじさんは長い舌を伸ばして笑いだしました。居並ぶ花見客から、真っ白でふわふわの服装をしたお兄さんを見極めて、笑みを一層深くしました。


--お前か。世界の秩序は。

--そう、僕だ。その娘を離して貰おう。ラスタロロスの幕下のものよ。

--今風に呼べよ。フットワーカーってさ。


 おじさんは、いえ、フットワーカーは自らの眼球をあり得ない方向にくるくる回し、腕に抱いた静日に視線を合わせました。


--んで、コイツを? 得体の知らないヤツに? おいおい、俺はコイツの母親のダチだぜ? つまり、コイツは俺のものだ。焼くのも煮るのも俺の勝手だ。けけけ。

--得体なら教えてやろう。僕の名は永野晋太郎。全てを吹っ飛ばすWorldorder。

--そうか。まあ、関係ねえけどよ。

 おじさんは短く呪を唱えると腕から六本腕の巨大な戦闘獣を出現させました。腕から生えた戦闘獣は宿主と同じように笑って舌を見せると、そのまま静日の右腕を一口で食いちぎりました。


 骨の砕ける連続する音に、咀嚼する音。

 腕の断面から白いものが見え、血が出るのを眺めて、は目を細めました。

--もちろん、躍り食いも俺の自由だよなあ。


 真っ白なふわふわのお兄さん、晋太郎は表情を消すと、手から炎を出してフットワーカーに襲いかかりました。静日を使い捨ての楯にして、フットワーカーは回避。

 そして消えぬ火が静日のちぎれた右腕を焼いているのを見て、肩をすくめるのでした。


--ひでえやつだ。この娘が可哀想だなぁ! 踏んだり蹴ったりだなぁ!

 そして周囲の花見客に向けて腕を伸ばすと戦闘獣を次々切り離して襲いかからせました。


--見物じゃねえって言ってるだろ!


 フットワーカーはそう怒鳴ると、首筋に注射器を討ちました。しばらく震えた後で、不意に優しい顔になりました。

--まあいい。勝手に刺身を焼き肉にした罰だ、お前死ね。


 フットワーカーはさらに大量の戦闘獣を腕から生やすと、晋太郎に襲いかかりました。

 晋太郎は首筋からふわふわの毛皮をを取り外すと、短く呪を唱えてキツネにして放つと、自らは腰に差していた一六本の太刀を抜いて分身、戦闘獣たちと積極白兵戦を展開しはじめました。


--分身とはでたらめな技使いやがって、ああ? あと腰に何十本もポン刀差してるんじゃねえよ! おかしいだろ!

--一六本だ!


 フットワーカーは腕の獣の牙で、晋太郎は太刀で、それぞれ互いに撃ち合いました。火花が同時にいくつも飛び散って、そのたびに血の花が咲きました。


 何度かの打ち合いの後、残っていたのは数体の晋太郎の分身でした。互いにぼろぼろの顔を姿を見て苦笑して、一つの姿に戻りました。


--悪いが僕の勝ちだ。

--あぁ?

 傷だらけのフットワーカーは笑いました。


--んなわけねえだろ。忘れたのか。フットワーカーはいつも二人組なんだぜ。


 晋太郎は後ろから貫かれました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る