第3話[史談往来]「朱印帳巡り今昔」

[史談往来]「朱印帳巡り今昔」

 昨今、朱印巡りブームである。各旅行社は、根強い人気の企画に、顧客獲得に「朱印巡り」にしのぎを削っている。古くは、四国遍路・西国観音の巡拝で「納経帳」から「朱印帳」へと神社まで朱印の広がりを見せ、そう言った意味で神仏合わせ朱印巡りブームを作った。

 「朱印帳」は印章・印影である敬称として「御朱印」として屏風折りや、大きな色紙に寄せ書き風に朱印が記されているものがある。観音巡拝では「西国三十三所・坂東三十三所・秩父三十四所」合わせ百観音として重宝がられている。

 本来巡礼・巡拝の「納経帳」の意味は現在・未来の安穏や追善供養のために納めること。または巡礼の際は、経典の代わりに米、銭を納めること。納経帳に仏号・寺号・印等を受けるもであった。

 近年、またそれぞれの地域に不動巡り・薬師巡り・地蔵巡り・十三仏巡り・七福神巡り、また関西の神仏合わせ「神仏霊場」二百寺社は伊勢神宮から延暦寺まで、神仏の壁を乗り越え、一般老若男女が触れやすく、親しみやすいように工夫がされている。

 筆者もよく利用する交通社二社も「ミステリー朱印巡り」の企画があって、バスに乗車しても、行き先が分からず、寺社の近くになって、やっと寺社名が分かる仕組み。

 期待外れもあれば、今まで行ったことない、隠れた古刹寺社に巡り会えることもあって、ツアーは人気沸騰、理由は型にはまらない。遍路・観音巡拝はバス・道中の作法が厳しく、般若心経は車中から各寺院で三~四回で少々煩わしい点があるが、ツアー任せの朱印巡りは、半分旅行気分で楽しめて、神仏に触れ合える。

 しかも歴史に触れられ改めて、信仰価値と歴史的価値の両面の利点がある。私も一通り巡拝・巡礼をして、信仰と歴史に十分触れ合うことが出来た。

 朱印巡りが過熱気味で少々「朱印帳」収集に力点が置かれ、作法を忘れ、本堂・本殿の祈願・祈念を忘れ、朱印帳の列に殺到するのも如何なものかと反省する。

 趣旨として本尊・祭神の分身を頂く意味で、丁寧に朱印帳を扱いたいものだ。もう一つ朱印帳に朱印を受ける意味で、お参りし、訪れた記録する意味で、ぱっと朱印帳を広げてみれば、何時参拝、巡拝したかは記念と記述で明白に知ることが出来る。

 中でも興味深い朱印帳巡で、歴史的価値と意義を見出したのは、「全国一ノ宮」巡拝である。この「一の宮」に出会えることで、ぐっと「古事記」が身近になった感がある。

 何故なら一ノ宮の祭神は古事記に関わりのある神々が祀られているからで、地域の根付いた豪族・先住の土着した種族の神々が鎮座していて、日本の諸国にある「天津神」と「国津神」の分布を見れば、古代が見えてくる。

 大和朝廷が諸国を勢力を広げていく様をうかがい知れる。一ノ宮への貢献者は江戸時代の「橘三喜と伴信友」の神道学者と国学者によって、記録され、近年になって「諸国一の宮会」が形成され、「一の宮朱印帳」が普及され、東京・大阪の交通社には「一の宮ツアー」が企画され、熱心な信仰者顧客に結構繁盛している。

 筆者も興味があって、神社に「全国一の宮御朱印帳」が社務所に備えてあったので、決心をして、5,6年前から巡拝を始めた。

 一ノ宮には「全国一ノ宮巡拝」の会のようなものが組織されて、それぞれ用品やグッズなどが用意されている。北海道から九州まで68カ国・97社の神社が列挙されている。一国に2社があって、歴史の変遷を窺い知ることが出来る。 しかし精々廻れても近畿地方が関の山、その広さに、そう簡単にできないものと思い知らされた。

 暇を見つけては、地域の歴史探訪で「浪速史跡探訪」として住之江区の住之江公園の角に鎮座する「大阪護国神社」に朱印をしてもらえることを知って、久々に訪れた。

 護国神社は府県に、東京の靖国神社を中心に、国の為に殉職者を祀る神社であるが、昨今、戦死者の遺族の年々減少に神社の維持が大変と聞き及んでいた。

 大阪護国神社には大阪府出身者ならびに縁故者の殉国の英霊者十万五千六百柱が祀られている。

 参拝をすました後に、社務所に朱印をお願いをして、宮司さんと世間話の中で、市民と接点として催事や、自衛隊の式典が盛大に執り行われ、近年若者の参拝が多いと聞き及び、初宮参り、七五三、結婚式、厄除け、交通安全、家内安全などの御祈祷が地元に密着した祭事があると言うことだった。

 話が弾んだところで、「全国護国神社巡拝」のガイドブックと「全国護国神社巡拝朱印帳」を示され、巡拝を勧められたが、年齢的にも、一ノ宮を巡拝することを断念する、今から全国の護国神社参拝にチャレンジには年齢的にも難題である。

 今、若者の護国神社参拝が増えていると言われた。今日本人にとって、靖国神社は知っているが、それぞれの府県に殉職者が「護国神社」が祀られていることを知っている人は少ない。

 「朱印巡り」が、一大ブームとなって、神社仏閣のいろんな方面で接点を作り普及し、伝統文化・歴史習慣に接する事は、大変意義の有ることと思えた。



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