3つのことば。

トオヤマ

ゆれる



(金魚 少女 鉢)









 水面を泳ぐお月さまはきらきらと揺れ、水中を泳ぐオレンジのヒレはゆらゆらと揺れる。揺れるお月さまと、泳ぐオレンジを、ずうっと見ていた。


いつからここにいるのだろう。いつからわたしは、ここにいるのだろう。ここから見える景色は全てゆらゆらと揺れ、こちらを覗く人々の瞳もぎょろぎょろと揺れる。はじめこそ不気味だったそれにも、また今日もか、と呆れに変わってしまった。


わたしがいるこの鉢は、夜になると月の光が真っ直ぐに差し込む。わたしは毎度その光を見つめては、まるで見せ物にされているようで不快に感じていた。いつかここから連れ出す一筋の光なのではないかと、そう思っていたのはいつのことだったか。


ぎょろぎょろと揺れる瞳の中に、いつも決まった席に座った少年がいた。眉根を寄せて、鉢の中のわたしたちを見つめている。彼は、何を考えてこちらを見つめるのだろうか。わたしたちが嫌いなのだろうか、むしろ、心配してくれているのだろうか。なんて都合のいい解釈をしてみたが、どちらに転んだところで、わたしがここにいることは永遠に変わらず、明日もこの瞳と、光と、彼の視線に晒されるのだろう。


嗚呼、なんて退屈な。


退屈な。



わたしはどうして、ここにいるのだろう。


眠ってしまえたらいいのに、と少年から視線を外したその時、ガタリと大きな音がする。その音の方向に再び視線をやると、彼が勢いよくこちらへ駆け出していた。ぎょろぎょろな目を押しのけて一気に鉢の前へと立つ。驚いたわたしはそこから動くことも出来ず、目の前に現れた少年を見つめるしかなかった。彼の眉根は、寄ったままだった。


彼の手が伸び、






鉢を掴む。










持ち上げられたそれは、

















急速に床へと落下した。




わたしの視界には、もう寄せられた眉は映っていない。

代わりに在るのは、ほっとしたような少年の笑み。

それと、もう揺れない、わたしのオレンジ。




嗚呼なんだ。














きみが光か。

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