エピローグ(その4)

 城門が開き、一台のリムジンが敷地に入った。

 龍野とヴァイスは、揃ってリムジンの客を出迎える。

「お待ちしておりました……って、あなたはまさか!」

 そう。


 客というのは、ガロウダ・ハナノその人の事であった。


「お久しぶりでございます、お二方」

 以前までと変わらぬ、うやうやしい振る舞い。間違いなく、ハナノである。

「いや、待ってください!」

 疑問の声を上げたのは龍野だった。

「無事だったことは嬉しいのですが、それはどうして……!?」

「ああ、それですか。実は……」


 ハナノは語る。

 自分は、確かに一度スクラップとなったことを。

 けれど、ジークフリートという男に体を再構成されたことを。

 コアとなる脳髄が無事だったことで、以前の人格をそのまま引き継げたことを。


「ハナノさん……よく、無事に戻ってきてくださいました……」

「ハナノ様……! わたくしヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアは、貴方を歓迎いたします!」

 全てを聞き終えた龍野とヴァイスは、改めてハナノとの再会を喜んだ。


「おっと、俺を忘れないでくれよ」


 リムジンから響く声。

「俺はジークフリート……もっともこれはコードネームで、正確な名前はもうねえがな」



 ある時は“道化”、またある時は“不死身の英雄ジークフリート”と呼ばれた男。

 当初は龍野達と敵対しているのをよそおいつつも、自らの目的、すなわちハナダ救出のために力を尽くした男は、ハナノの見送りに来ていた。

 彼に関しては、この後の予定はわからない。おそらく、自由気ままに生きるのだろう。



「ジークフリート……!」

「無事だったの、ですか……?」

 疑問を告げるヴァイス。

「ああ。1mmの差で大丈夫だったんですぜ、姫殿下」

「それは良かったですわ」

「まったくだ」

 一時とは言え、最終的に共闘した男を笑顔で迎える龍野とヴァイス。

「そんじゃ、俺はこれにてドロン。ああそうだ、黒騎士サマ」

「何だ?」

「『“道化”がハナダによろしくと言ってた』って、伝えといてくれ」

「ああ」

 そして、ジークフリートを乗せたリムジンは敷地の外に出た。


     *


「今日から新しく参りました、ガロウダ・ハナノと申します。よろしくお願いいたします」



 一度機械の肉体を失い、再び甦った男、ガロウダ・ハナノ。

 彼はベイエリアに来た龍野とヴァイス、それにその他の人物を丁重にもてなした。活躍は目立たぬが、彼をよく知る者は忘れないだろう。



「あっ、ハナノじゃん!」

 ハナノの姿を見つけたゾン子が、駆け寄る。

「お前、無事だったんだな!」

「ええ、どうにか生きて帰ってこられました。そうだゾン子様、これを」

「んあ、手紙……?」

 ゾン子が封を開けて手紙を読むと、「ハナダ様に位置が発覚してしまうのは、私がコーヒーに特製マイクロチップを仕込んだからでございます」とあった。

「お前ぇええええええええ!」

「おっと」

 ゾン子がハナノを殴ろうとするが、軽くいなされてしまった。


(ハナダ様、ハンナ様。私は、新たなる使命を見つけました……!)


 人に尽くすことを史上とする善のサイボーグは、既に人間の感情を心得ていた。


     *


「さて、みんな無事だったのは良かった」

「ええ、そうね」

「ところで、ヴァイス」

「何かしら?」

 龍野がヴァイスを呼び止めると、唇にキスをした。

 そのまま5秒間、二人は立ったまま動かなかった。

「ふふ、ご褒美が欲しくなったのね」

「ああ」

「慌てなくても、もっとあげる。これから、ね」

 ヴァイスは笑顔で龍野を見る。


 全てを見届けた騎士と姫は、騎士の部屋で二人の時間に入り始めた。

 久しぶりに二人で過ごす時間は、ただ甘美であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る