幕間
幕間 挨拶から始まる事件
龍野とヴァイスは“0番エリア”と称される土地に到着した。
「ここか」
「そうね。龍野君、ちょっといいかしら?」
「何だ?」
「ちょっと寄っておきたい場所があるの。ついてきてくれるかしら?」
「ああ」
ヴァイスは龍野を先導すると、頭に叩き込んだ地図を参考にしながら、歩を進めた。
(「現地にいる女性幹部に顔を合わせておくこと」という指示があったのですもの、本部からの指示は遵守しなくては。もっとも、「参加者を明確にする」という目的もあるのですから、合理的ではあるのですけれどね)
本社ビルに足を踏み入れた二人。
ヴァイスは自ら身分を明かすと、受付の女性が部屋を案内し始めた。エレベーターに乗り、49階まで上昇する。
『着いたわね』
『ああ』
いかにも高級そうな扉に案内されると、女性は身を引いた。「ここから先には、立ち入りません」ということだろう。
ヴァイスが三回ノックする。
「どうぞ」
中から女性の声がした。ヴァイスは声を確認すると、龍野に視線で合図し、扉を開けた。
そこには、スーツ姿の初老の女性がいた。
「突然の来訪、お詫びいたします。わたくしはヴァレンティア王国第一王女、ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアと申します。付き添いの者は、わたくし直属の騎士、須王龍野と申します」
言葉と共に、一礼する二人。
「初めまして。私はここの責任者、ハンナ・ミササギでございます」
ハンナと名乗る女性は、二人に
「姫殿下、並びにその騎士様。今回ここに召集された理由は、既にご存知でしょう」
「ええ」
ヴァイスが短く返答する。
「あなた方の上司……と呼ぶべきでしょうか? そういった上の立場にあるお方から、命令書が差し出された、とか……」
ハンナが切り出す。
「その通りですわ、ハンナ様」
再びヴァイスが簡潔な返答をした。
「ですが、今回の目的は“調査”でございます。『命令書』の文面には、それだけが記載されておりました」
「なるほど……かしこまりました。姫殿下、少々折り入ってのお話がございまして……」
その言葉を察したヴァイスは、龍野に目線で合図する。見て取った龍野は、黙って扉の外に出た。
*
ギィイと音を立てて扉が開く。音を確認した龍野が向き直ると、話を終えたヴァイスが出てきた。
「終わったか?」
「ええ」
だが、何故かハンナも一緒に出てきた。
「こちらに」
そのままエレベーターまで案内される。そして、「上」のボタンを押すハンナ。
『上だと?』
龍野が念話で訝る。だが、ヴァイスが即座に止めた。
『今は流れに任せましょ、龍野君』
そして、ピンポーンと到着を知らせる音がする。
その数秒後、エレベーターは三人を50階に運び、ドアを解放した。
「社長室」と書かれた部屋を尻目に、ハンナは二人を謎のシャッターの前に案内した。
「こちらは?」
龍野が疑問を発する。だがハンナは、黙ったままシャッターの側の端末を操作した。
「ついてきて下されば、わかります。騎士様」
シャッターで隠れていた階段を上り、屋上に出る。
そこには、ヘリポートが鎮座していた。
「北の本州への橋を、見ていただきとうございます」
ハンナが促し、二人の視線を本州に通じる橋へと誘導する。
すると、ヘリのローター音が近づいてきた。
みるみる内に距離を詰め、三人の直上にまで迫る。
「うおっ!?」
龍野は警戒しつつヘリを見るも、敵意は無いと悟ったのか、すぐに構えを解いた。
「それでは、私はこれにて失礼いたします。お二方、特に騎士様のご健闘をお祈りしております」
「どういうことです!?」
龍野は叫ぶも、ハンナは取り合わなかった。
ヘリはハンナが乗り込んだのを確認すると、あっという間に姿を小さくして、本州へと消えて行った。
「どういうこったよ!? なあ、ヴァイス!」
「シッ、静かに龍野君」
遠くで、ドォンという爆発音が連続して響いた。
遅れて本州に繋がっている、橋という橋が崩落した。
「何だよ、あれ……」
「わからないわ……(ついに、始まったわね……。以前の訓練といい、意図を読み切れないわ、『カンパニー』。けれど、私達は私達の目的を達成する。何があっても、ね。それじゃあ龍野君、お手並み拝見といくわね……)」
ヴァイスは龍野に合図すると、
そして1階まで降下すると、1番エリアに向かった。
(申し訳ないけれど、龍野君。貴方の行動、ある程度操らせてもらうからね)
ヴァイスは不敵な笑みを浮かべつつ、龍野の後ろに下がった。
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