天才と泣き虫なリゲル

くさかみのる

第1話

 私が疑問に思うのは、なぜ目の前の女性が泣いているかということだ。

 先ほどまで会話をしていたはずだ。星空を模擬的に映し出す機械についての会話を。

 彼女は熱心にメモを取りながらいくつかの疑問を投げかけて、私はそれに応えていた。だというのに泣き出した。意味が分からない。

 専門用語が多かっただろうか、いや一般人の言語レベルに合わせた会話をしたはずだ。ではなにか機嫌を損なうような発言をしたのだろうか。

 一部の人間の間で"天才"などという称号を付けられた私は、少々物言いがきついことがある。むろん自覚しているし、あえてそうすることもあるが、初対面の女性に向かっていきなり棘のある言葉を投げたりはしない。それが学ぶことに必至な相手であれば、なおさらだ。

 誓って言おう、私は彼女にひどい言葉など与えてはいない。

 ではなぜ泣き出すのか。

 泣く女性の前で棒のように立ち尽くす私は憐れと見られるのだろう。だとすれ誰か、救いの声をかけるべきだろう。しかし道行く人は皆、見てみぬふり。凡人どもめ。

 かくいう私も、もし同じような現場に出くわせば無視を決め込むだろうが。

「なぜ泣く」

 気の効いた台詞など吐けない唇は、冷たい言葉を零すだけ。

 彼女が私を見上げた。

「いえ、感動してしまって」

「――は?」

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天才と泣き虫なリゲル くさかみのる @kusaka_gg

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