003 虹星練武祭と騎士候補生
――
大陸の南部から湧き出るようにして各地に出現する魔獣は、かつては一体倒すのに十人の犠牲が必要になったという。一般人ではなく、訓練を積んだ戦士がだ。
しかも弱い魔獣ですらその被害で、中には百人以上集まっても蹴散らされ、惨たらしく全滅するだけの強大な魔獣もいる。それも一体や二体ではなく、数十と確認されていた。
しかしそんな強大な
最初は弱い
しかし被害はゼロではないし、稀に
ただ、
だが、いくつもの国は様々な意味で平等ではなく、内政に励むだけではどうにも出来ない壁がある。それを避けて貿易交渉をしようにも、やはり有利不利は存在し、弱い国は搾取されるだけになってしまう。
――そこで生み出されたのが、
各国は代表の
不参加という選択肢も取れるが、その場合は褒賞を差し出すことになる。一回戦負けよりは負担が少ないが、搾取されるだけになるので、結局国の地力は磨り減ってしまう。
なので現存する国はいくつかの淘汰、併合の結果残ったもので、全ての国が
だが、残念ながらレグ達の住む華炎フレングレールは弱小国で、五年連続の一回戦負けが続いていた。
『……今はまだいいわ。けれどこれから二年、三年と一回戦負けが続けば、この国も危ういわね。だから強化が急がれているし、出来るなら今年も勝てるチームを出したいの』
そう言ったフランベルは歯がゆさを隠しきれない表情だった。
練武祭に出られるのは、十三歳から二十四歳までに限られている。つまり、今年で二十四歳のフランベルにはまだ出場権があった。
しかし女王代行として多忙を極めている限りまともな訓練はままならないし、万が一にも練武祭で死亡などしたら、この国はほぼ回らなくなる。それくらい彼女は国にとって欠かせない人物で、嫌味な貴族連中ですら今は彼女を失うわけにはいかないと思っているらしい。
だからフランベルは、練武祭には出られない。女王代行として、自分より遥かに未熟な
その悔しさ、憤りは、レグにはよく分かる。それこそ、痛いくらいにだ。
せめて『今の自分より確実に強い』と思える
仲間としては彼女の目論見通り、強い
「正直、かなり難しいんだろーなぁ……」
踏みならされた、人が二人くらいなら横に並んで歩ける道を進みながら、思わずレグはぼやいてしまう。
王城に連れて行かれたのは昼前で、今は職人達が午後の仕事を開始するくらいの時刻だ。
街を出て向かっているのは自分の家ではなく、大人の足で歩いて小一時間はかかる場所にある、昔は牧場だった所に作られた訓練場だった。残念ながら土地が痩せて牧場は移設され、今や雑草もあまり生えていない禿げた地面が見えているだけなのだとか。
確かに、森の中を通ってあと少しのところまで進んできたが、途中まで木々や草花が鬱蒼と生い茂っていたのに、この辺りは膝の高さまである茂みと細く折れ曲がった木がいくらか生えている程度だ。
これなら多少破壊したところで森林破壊だとか地形を変えるなだとか、うるさいことは言われなくて済む。
「……とはいえ、これは遠すぎだろ……もっと街の近くに採掘場跡のでかいフィールドとかあるじゃねぇか……」
ブツブツと愚痴りながらも歩いていくと、やっとで開けた場所を木の柵で囲っているのが見えた。どうやらあれが件の牧場跡らしい。よく見れば小屋やら納屋やらの建物もいくつかあるが、遠目からでも傷んでいるのが分かる。
その中では一番マシな状態のログハウスの前に、何人か集まっているのが見えた。どうやらあれがレグの教えるチームのメンバーらしい……の、だが……
「……なんであいつら、バラバラでいやがんだ……?」
今日のこの時間に
まあそれはさておき……数えてみれば四人しかいない。チームは五人のはずなので一人足りないが、こんな所にピクニックに来る連中がいるとも思えないので、やっぱりあれがレグの
なのにそれぞれ好きな場所に立ったり座ったりしていて、会話をしている様子はない。険悪なムードこそまだ見て取れないが、少なくとも仲良しチームには見えなかった。
寄せ集めのチーム、というのは聞いていたが……あれをまとめて国内の予選を突破し、各国の精鋭が集う
「うーわー……無理な気配しかしねぇし……いくら対戦は個人でやるからって、三ヶ月近く一緒に訓練するっつーのに、これかよ……」
そもそもあまり乗り気じゃない仕事だっていうのに、やる気メーターがマイナスになりそうだ。ため息の一つや二つも出る。
とはいえ、ここまで来て帰るっていうのも癪だし、それをフランベルが知ったら恐ろしくネチネチと責められるに違いない。
「ったく……面倒くせぇなぁ……」
足取り重く彼女達がバラけている小屋の方へと歩きながら、レグはどうやってこの仕事を辞めつつ纏まった金を捻出するかを考え始めていた。
牧場跡だけあって見晴らしは良い為か、近付いて来る人物に向こうも気付いたらしく、同時に二人がレグの方へと顔を向ける。やや遅れて、残りの二人もだ。
まだ距離は少し離れているが、それでも分かる。驚愕、戸惑い、不審――つまり、歓迎ムードとは程遠い。
ただ、全員に共通していることが一つ。
この国では基本的に練武祭に参加する
その上、年齢やタイプはそれぞれ違うが、美人揃いときている。ここが訓練場じゃなければ国一番の美人を決定する為に集められたのかと勘違いしそうだ。
レグも若い男なので綺麗な女性と接するだけなら嬉しい……が、とても残念なことに、それが集団で、しかも自分が色々教えないといけないことを考えると、むしろ罰ゲームにしか思えなかった。
「はぁ……ベルに関わると、本当にろくなことないな……」
誰もが畏怖する女王代行を愛称で呪いながら、レグは一際大きなため息を吐いた。
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