亡者は異世界に何を見る

クロケモノ

生きし日の思い出

 私には何も無い。才能も無ければ家族もない。早い頃に孤児となり、愛情も注がれず表情も現れず、言葉も全くと言っていいほど知らず、ただ街の家々の隙間に雑魚寝し盗みを働き生きていくだけの人生だった。盗みをして店主に捕まることが多かったせいか喧嘩術だけが発達した。

 ある日、街に外征騎士達が王宮に帰還するためいつも以上に賑わっていた。そんな事は露知らず、私は今日も生きるために店の食料を盗んだ。しかし運悪く、盗みを働き逃げようとした所を此方を見ていた外征騎士に見つかってしまった。いつかこんな日が来るだろうと分かっていた私は死など恐れなかった。私を摘み上げ顔を眺め続けた騎士は私の予想や周囲で見ていた民衆の想像を遥かに超えた一言を発した。

「オメェ中々いいじゃねえか。動きにムラがねぇし、その瞬発力があるならいい感じに育つな。どうだ?うちの騎士団にはいらねぇか?」

 周囲の騎士は驚嘆し、私は呆然とするのみだった。

「ホ、ホントに言ってるんですか騎士隊長!?!?こんなチビガキが騎士になんてなれるわけないじゃないっスカ!!」

「そ、そうですよ!入団試験も受けてないのに!」

 周囲の騎士達が私を摘み上げ騎士隊長とやらに説得する。

「今回の外征でうちの隊は何人か帰らぬ者となっちまった。そんな中逸材を見つけたならそれを即採用したいのは普通だろうが。」

「で、ですが!」

「じゃあ何か?今回の外征で敵軍と対峙した時、奴らを殺した奴はこの中にいるのか??」

 怒りや戸惑いに声を上げていた他の騎士達は急に黙りお互いの顔を見合わせた。

「そういう事だ。所詮採用試験でお偉いの成り上がりばっか採用しても意味ねえ、実戦で強い奴ばっか死んでいって生きるのは才能のねえボンボンばっかだ。金だけもらって何もできねぇお前らよりかはこいつの方が余程良いってもんだ。」

周囲の騎士はもう何も話さなかった。

満足した様な感じで騎士隊長とやらは私の方を向き、

「どうだ坊主、うちの隊に入らねえか?盗みをしなくとも飯が食えるし職にもつける。おまけに着るモンも住むところも付いて来るぜ。」

私は喋れこそしないが日々街の人々が話すのを聞いていたので話している事は全て理解できた。勿論返答は首を縦に降る事で伝える。

騎士隊長は兜を外し私の顔を見てニヤリと笑った。

「よしガキ!お前は今日からこの俺、ルーデリヒ・アヴェンド率いる第2番隊の一員だ!」

そう私に告げた騎士隊長の顔は厳ついながら満面の笑み浮かべていた。

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