気まぐれなショート

紅ぴえろ

『評価の世界』〜お題『SNS』〜

「SNS疲れですね」


 医者にそう言われた。

 元々、私は承認欲求は高いほうだったが最近では周囲の目が過度に気になるようになり、ツイッターやフェイスブックに投稿すればリアクションがあるかが気になってたまらなくなっていた。仕事中でもデート中でも隙あらばチラチラ確認してしまう。SNSを初めたころはシンプルに発信することが楽しかったはずなのに、誰かからの反応がないと満足を得られない身体になっていた。


「今多いんですよ」


「他にもよく患者さんがくるんですか?」


「ええ、年々増えているような気がします。あ、ちょっと失礼」


 そう断りを入れてから、医者は自分のスマホを取り出す。

 え?まさか?と思って覗いてみると、ツイッターを開いて自分のタイムラインを確認している。


「診察中ですが……」


「すみません。さっき政治的な発言をしたんですよ、キレキレの。それにリプライやいいねがあるかなと思って」


「はぁ」


 著名な精神科医でさえもこれなのだ。気にせずに生きるほうが無理な世界になってきてるのかもしれない。


「どうしたら治りますか?」


「それは簡単ですよ、SNSをやめればいい」


「やめる……」


「手元にスマホがあるとどうしても見てしまいますし、脱退したりアカウントを消すことをオススメしてます」


「薬なんてものは?」


「そんなのあるはずありませんよ。がはは」


 タガが外れたように医者は馬鹿みたいに笑った。

 だが、SNSをやめることについては確かに効果がありそうだと感じた。


 一人暮らしのアパートに帰り、スマホをテーブルの上に置く。呼吸を整えて、よし!アカウント全部消すぞ!と気合を入れたまではよかったが。

 気づけばかれこれ数時間は経過している。私はまだアカウントを消せずにスマホとにらめっこしていた。

 消せば楽になる。評価の世界から解放されて自由に伸び伸びとなれる。自分の人生を楽しむことだけに集中し、わざわざ人にアピールする必要もないし反応を気にしなくても良くなる。

 しかし一方で、SNSを中心とした繋がりから外れて大きな孤独を味わうことになるかもしれない。


「それでいいのか?」


 心臓の音がどくどくと高鳴っていく。なんでこんなもののために苦しまなきゃないんだと、少し馬鹿馬鹿しい気持ちが湧いてくる。たかがSNSじゃないか。私は覚悟を決め、SNSの各種アカウントを消去していった。

 全てを消し終えて解放感に浸った瞬間、真っ暗な闇に包まれて私の意識は消えて無くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る