蘇る悪夢


「フン、たった一人加わったところで何が出来る?」

「さぁな。だが、何も出来ないってわけじゃない」


 向こうは俺が加わったことに対して何も問題ないようだ。

 安心しろ、すぐにその余裕も無くさせてやる。


 俺は、持っていた剣を床に刺した後にスキルを発動する。


「属性創造・光」


 消費魔力は100のつもりだったが、消費する際に感じる体から抜けるような感覚が何故かしない。

 理由はわからないが、それはそれで好都合だ。


 そして、今俺がした創造はただの創造ではなく、文字通り属性を混ぜた創造だ。

 出来ないしわからない筈のことが当たり前のように出来た。

 いや、という方がしっくりくる。


 今創造した剣は、何の変哲もないただ切れ味がいい刀にしか見えないが、よく見ると無属性にはなかった輝きがある。


悪夢ナイトメアには光ってな」

「……そんな武器で倒せるとでも?」

「倒せるさ」


 前までの俺なら、どうすれば勝てるかを先に考えたが、今の俺はそれすら考える必要のないくらいに余裕だ。

 それを感じとったのか、目の前のナイトメアヘル擬きはさっきよりも警戒している。


「なら、君のお仲間を先に倒させてもらうよ」

「……!」


 そう言って、俺の目の前から姿を消す。恐らく、超高速で動いているのだろう。


 常人ならば目で追うことは不可能だが、今の俺は前の俺とは違う。

 奴の動きが目で追える。魔力解放による身体強化に伴って、動体視力も格段と向上したようだ。


 そして、ナイトメアヘル擬きがリアラへの攻撃を瞬時に反応し、刀で受け止める。


「……やるねぇ」

「言った筈だ、やらせねぇってな」

「い、いつの間にそこにいたんですか……!?」


 俺が攻撃を防いでいる後でリアラの驚いた声が聞こえる。どうやら、今こいつの速度に追いつけるのは俺だけみたいだ。

 それに、この魔力を解放しることで出来るようになったのは身体強化だけじゃない。


 走る際に、体から放出されている魔力を足に集中させ、爆発させることで、瞬時に移動をすることが可能になった。

 これを応用することで、空をも飛ぶことが可能だろうだろう。


「リアラとエレナは出来るだけ手は出さないでくれ」

「な、何故ですか?」

「そ、そうだよ!」

「今のアイツとまともに戦えるのは、恐らく俺だけだ。それに、アイツとの戦闘で受けたダメージも回復していて欲しいしな」


 あんな奴と戦ってたのなら、無傷では済まない筈だ。その証拠に、エレナは大量の切り傷、リアラは大量の打撲が見られる。

 その傷が原因で相手の攻撃を防げなかったなんて自体にはなって欲しくないからな。


「……わかりました」

「——ハッ!」


 リアラの了承を受けた後に、防いでいた攻撃を刃の部分で左に滑らすようにいなし、魔力を集中させた右足で蹴った瞬間に魔力を爆発させ、ナイトメアヘル擬きを吹き飛ばす。

 ナイトメアヘル擬きは建物に激突し、その建物には特大の穴が空いた。


「やっぱり、君には手加減は出来ないか」


 ナイトメアヘル擬きは激突した建物から出てくる。

 見た感じ、傷という傷はない。恐らく、ナイトメアヘルのスライムを使って衝撃とダメージから身を守ったのだろう。


「じゃあ、そろそろお互い本気でやらないか?」

「そうね、その方が早く済みそうだし」


 そう言った直後に、ナイトメアヘル擬きは体の周りに触手型のスライムを出現させる。対して、俺は数本の剣を創造する。

 恐らく、創造による魔力消費がなくなったのも魔力解放のお陰だろう。これなら、思いっきり無駄使いをしても問題ない。


「行け!」


 ナイトメアヘル擬きがそう叫ぶと、周りに出していた触手型のスライムが一斉にこちらに向かってきた。

 そして、俺の周りを取り囲み全方向から攻撃を開始する。

 ——だが、その程度でやられる俺ではない。


「創造・全方向投擲とうてき


 俺は、身の回りに剣を創造し、一気に投擲する。


 これも、魔力解放をしてから出来るようになったことの一つだ。

 まだスキルレベルが低いということもあって、消費出来る魔力は少ないため、今俺が持っている刀程の切れ味と丈夫さには到底及ばない。


 だが、今はスライムの触手を防げるならばそれでいい。

 まだ、ゴブリンの体を貫通できるかどうかはわからない切れ味にしか出来ないが、スライムならば少なくとも、ゴブリンの体よりは柔らかいので切断することは可能な筈。


 そして、放たれた剣は迫り来るスライムの触手を全て切り落とす。


「な、何!?」

「——まさか、今のが本気の攻撃なんてことは無いよな?神気取りの愚者さんよ」

「チッ、調子に乗るなぁぁ!!」


 ナイトメアヘル擬きは、拳による直接攻撃と触手による中距離攻撃に切り替えてきた。

 だが、どれもこれもが単純な攻撃で見切ることは簡単だった。


「くそっ、何故当たらない!?」

「攻撃が単純だな。これならリアラでも楽勝に回避ができるぞ?」


 もし、俺がナイトメアヘル擬きだったら、直接攻撃と触手攻撃のどちらかに絞って攻撃する。

 何故ならば、人間という種族に限らず、どんな生物の大半が片方に集中するともう片方でしていることへの集中が出来なくなる。

 つまり、今ナイトメアヘル擬きがしている攻撃方法は、相手に休憩の時間を与える攻撃手段と言っても過言ではないのだ。


「融合し手強くなったと思っていたが、ただの思い違いだったようだな。全身スライムで物理と魔法が効かなかったナイトメアヘルよりは弱いな」

「ふざけるな……!?」

(攻撃が弱くなった……?)


 突然、ナイトメアヘル擬きの攻撃速度と威力が減少した。その事にナイトメアヘル擬き自身も気付いているのか、違和感を感じたような表情をしている。


「な、何……この……感覚は……?」


 一旦距離を取った後にナイトメアヘル擬きはそう呟く。

 その瞬間にナイトメアヘル擬きに異変が起こる。


「ぐ、ぐぁぁッ!?」

「!?」


 ナイトメアヘル擬きの悲鳴と同時に大量の魔力が体から放出されている。

 この魔力の色と感覚……間違いない、この魔力はナイトメアヘルの魔力だ。


「お、お前は!?」

『……その程度の力で我を取り込めるとでも思ったか、愚か者よ』


 突然、聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、目の前にはナイトメアヘル擬きの半分が苦しんでいるのに対し、もう片方は苦しみとは真逆の顔だった。


 そして、この声の正体は俺が悪夢の世界で聞いたナイトメアヘルと同じだ。

 だが、それにしては以前よりもスラスラと話せている。いったい何があったというのだろうか?


『貴様が我の意識を一時的に封じた様に、今度は我が貴様の意識を封じてやろう。だが、この場合は貴様の意識を消滅させると言った方がいいか?』

「な、何だと……!?」

『それでは、さよならだ。もう会うこともないがな』

「グガァァァ!!」

『安心しろ、貴様の体は我が有効に使ってやる』


 そのまま、ナイトメアヘルはナイトメアヘル擬きの意識を取り込み終え、ナイトメアヘル擬きは本物のナイトメアヘルとなった。


「……ほう、これが人間の体か。だが、我の求める力には程遠いな」

「前よりは強くなったんだから文句ねぇだろ?」

「あるさ。今目の前にいる我と同等の力を持つ者がいるせいでな」


 ナイトメアヘルは真っ直ぐ俺を見つめながら言う。

 恐らく、ナイトメアヘル擬きだった時よりも、自身の力の使い方を一番知っているナイトメアヘルの意識が表に出ている今の方が遥かに強いだろう。


「貴様を倒し、次はその体から溢れている力を取り込ませてもらおう」

「そうはさせない。ここでお前を倒してこの街と住民達を救う」


 周りが静寂に包まれる。

 お互いに、いつ攻撃を仕掛けてもおかしくない雰囲気だ。


 ——これが本当のリベンジマッチだ!


 そう意気込んだ瞬間に、俺とナイトメアヘルは同時に動き始める。


 今この瞬間に、俺とナイトメアヘルの最終決戦が幕を開けた。

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