規格外の男


 「——ここは……何処だ?」


 俺は最近呟いた気がする言葉を言う。これが世に言うデジャブというものなのか?


 周りを見渡すと真っ白で何も無いが、悪魔の世界を侵食してきた白い世界とはまた別の雰囲気を出している。


 確か、俺はさっきまでナイトメアヘルが作った悪夢の世界にいたはずだが、突然聞こえた声で……。


 何故か、さっきまでの記憶の一部が飛んでいる。恐らく、何らかのショックがあったからだろう。


 そして、俺は記憶を掘り起こしていく。それがわからないと、何故今俺がここにいるのかがわからない。


「そうだ!確かあの時声が聞こえて」

「亀裂を触って気が付いたらここにいた、だろ?」

「っ!?」


 声が聞こえた。ならば近くに誰かがいる筈なのだが、周りを見渡しても姿が見えない。


 それに、初めて聞いた声なのに、不思議と親近感と懐かしさが湧いてくる。


「誰かいるのか!?」

「おいおいシロウ、昔よく遊んでいた俺のことを忘れたか?」


 一体こいつは何を言っている。俺はこの世界とは違う世界から来た。こいつの言う昔からというのはまず有り得ないことだ。

 なのにこいつは俺の名前を知っている。

 もしかしたら、俺ではなくこの体の元々の持ち主の知り合いだったのではないだろうか?


「人違いじゃないのか?」

「それは無い。お前の声、姿、口調、どれも四千九百年前と同じだ」

「四千九百!?」


 有り得ない、としか思えなかった。

 だったら、今俺が話をしている相手は四千九百年前の奴だって言うのか?

 じゃあ、俺って今何歳なんだよ!?

 四千九百年前の奴が俺を知っているってことは俺の体って実は四千九百歳を超えてる!?


「それにしても、本当に覚えてないのか?」

「覚えてるも何も初対面だよ」


 というか対面すらしていない。さっきから声が聞こえるだけで姿が見えない。


「なら、もう一度自己紹介をしてやる。絶対に忘れるなよ!?」

「はいはい」

「ふぅ……」


 姿が見えないところで深呼吸し始めた。

 いや、自己紹介の前に姿を見せろよ姿を。

 と思った矢先に、目の前に突然ドロンッという擬音語が似合いそうな感じで煙が出てきた。


「我が名はヘル、ヘルド シルバーレイ。種族は悪魔で歳は五千十四歳。そして、現デモービルで最も強い剣士だ」

「ご、五千十四!?」

「あれ?悪魔の寿命は人間より遥かに多いって知らないのか?」


 それ、初耳です。悪魔の寿命が長いって言うのは俺がいた世界のラノベとかではよくある設定だったので知っているが、この世界の悪魔の寿命がそこまで長いのは初耳です。


 しかも、それって邪龍デスラと英雄が戦った時期とかなり近いじゃないか!

 てことは、俺が憑依している体は邪龍デスラが生きていた時に生まれたって言うのか!?


「いや〜久しぶりの再開だが、そんな悠長なことも言ってられないか」

「どうしてだ?」

「お前のお仲間が大ピンチだってことだ」

「は?」


 何故ヘルが俺の仲間のことを知っているんだ?

 いや、それよりも大ピンチってどういうことだ?今一体リアラ達に何が起きている?


「何故知ってるかは割愛させてもらうぞ」

「そうしてくれ」

「じゃあ、何故ピンチなのかはお前にもわかる筈だ」


 俺にもわかる、だと?俺がナイトメアヘルに悪魔の世界に意識を飛ばされてから、外の様子は知るわけ……あれ、少し待てよ。確か俺は、ナイトメアヘルにやられたんだよな。

 だったらピンチの理由は明白だ。


「……ナイトメアヘルか」

「そうだ。そして、お前に討伐を依頼した奴がいただろ?」

「ああ、名前は名乗らなかったが」

「そいつがナイトメアヘルと融合した」

「はいぃ!?」


 どういう理由であの人がナイトメアヘルと融合するんだよ?

 改めて言おう、本当にどういうことだ?


「て、何でお前はそこまで知ってるんだよ」

「そりゃ、此処がナイトメアヘルが作った世界の一部を切り取って俺なりに改造した所だからな」

「もうなんでもありだな……」


 あまりにも目の前にいるヘルドは規格外過ぎる。

 デモービル最強の剣士という称号は伊達では無いらしい。


「さて、お前はどうする?俺が作った所だから意識を体に戻すことは可能だが、今のお前の力では勝算は無に等しいぞ?」


 それくらいわかっている。元々悪夢の世界でしか意識がなかったナイトメアヘルにあの依頼者の意識があるということは、それはナイトメアヘルに意識があるのに等しい。

 つまり、超厄介な存在になったというわけだ。


 意識のないナイトメアヘルに苦戦していた俺達じゃあ太刀打ちできない。


「どうすれば……」

「その問題を解決するのがこの俺なんだよな〜」

「ふーん」

「あれ?思ったより反応が薄いな〜何でだろ〜?」


 解決するのが誰かなんて俺にはどうでもいいこと。

 それより、その解決する方法というのをさっさと教えてくれって話だ。


「解決っていうか、元々は女神さんにシロウがこの街に来たら渡してくれって言われたんだよな」


 そう言いながら、ヘルドはこの真っ白な空間の床を触ると、触った床から青白く輝く物が出てきた。

 

 俺はそれ見た時を見た時に親近感とはまた違う感覚がした。

 俺だからこそわかる。


 ——あれは……だ。


「俺にはこれが何かわからねぇが、どうやらお前にはわかっているようだな」

「………」


 じゃあ、四千九百年のこの体のレベルが1だったのは女神様がこの体の力を分散したからって言うのか?

 何故そんなことをする必要がある。そして、何故今になって返そうとする?


「女神様が言うには……なんだっけか……力の一割……だっけか?」


 ヘルドの言い分が正しければ、あれは俺の力の一割だそうだ。

 いったい女神は、俺の力をどれだけ分散しているのか。


 そして、ヘルドがその輝く物を渡してきた。

 それを受け取ると、輝く物は俺の体に吸い込まれるように入っていった。


 その瞬間に、力が湧いてきた。ほんの少しではなく、特大の力を。


「こ、これは……!?」

「ほう……!」


 溢れる力はヘルドにも伝わったようで、ヘルドは今の俺を見て感心していた。


「この力があれば……!」


 ナイトメアヘルを倒し、リアラとエレナ、そして、デモービルの皆を救える!!


「ステータスの確認は後にしとけよ」

「言われなくとも」


 だが、慢心はしない。いくら強い力を手に入れても慢心すればそこを突かれる。

 ナイトメアヘル相手に油断は禁物。一瞬の油断が命取りだ。


 すぐに俺はヘルドに頼んで、現実世界に戻る扉を作ってもらった。


「また、会えるか?」

「大丈夫だ、きっとまた会える。それに、ここはナイトメアヘルの世界だが俺が切り取って改造した世界だからあの世界とは別の世界として存在している」

「つまり?」

「ナイトメアヘルをぶっ倒しても俺が今いるここは消えないってわけだ。だから、遠慮なく奴を叩きのめしてこい!」

「おう!!」


 そう言って俺は、ヘルドの作った扉を開けて奥に進んだ。


 奥に進んで行くにつれて周りが見えなくなってくる。だが、俺は止まらない。現実世界に戻るために今はただ走る。

 

 そして、目の前が完全に見えなくなると目に妙な違和感を感じた。


 ——目が閉じている。


 さっきまで開いていた目がいつの間にか閉じていた。つまり、俺は今ヘルドが作った世界ではなく現実世界に戻ってきたというわけだ。


 それがわかるとすぐに目を開けて立ち上がる。


 目の前には誰もいないが、地面の一部がえぐれていたり、近くの建物が壊れていたりと戦闘があった形跡がある。


 恐らく、今そのナイトメアヘルと融合した奴と戦っている筈の二人のもとへと向かおうとすると、突然周りが一瞬揺れたと思ったら、俺の姿に変化し始めた。


「これは……魔力を解放したのか?」

 

 着ていた青いロングコートは所々赤が混じり、履いている皮のブーツは……特に変化なし。


 変化したのは、ロングコートと中に着ている俺がこの世界に来てから着ていたシャツが鎧のような形になったくらいだ。


 無意識な魔力解放……なんとか制御できるようにしなきゃな。


 それと、あの力を手に入れてから、やけに魔力が多くなったような気がする。

 ステータスを今すぐにでも確認したいところだが、今優先すべきは二人の元へ向かうということだ。


 それより、さっきから街の奥から戦闘音らしき音が聞こえてくる。

 

 ——きっと二人はそこにいる!!


「二人共、待ってろよ!」


 そう言って、俺は音が聞こえてくる街の奥に向かって走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る