撤退戦


 ナイトメアヘルを倒し、魔臓を回収しに行った私とシロウさん。

 これでナイトメアヘルに眠らされてしまった人達は目を覚ます筈です。

 シロウさんが突き刺した魔臓は生気を失っていて倒したことが確認でき、一件落着かと思いましたがシロウが何か難しいことを考えているようです。


「まさか……!」

「どうしたんですか?」

「気をt……」


 ドォォォンッッッ!!


 シロウさんが何かを私たちに伝えようとした瞬間に地面から黒色のドロドロしたものが物凄い音と共に出てきました。

 私は突然の事で反応が遅れ、逃げ遅れるかと思ったら私のことをシロウさんが持ち上げ、ドロドロしたものが当たらない場所に投げられました。


「へっ、日々の筋トレと素振りが役に立った……!」

「シロウさん!!」


 シロウさんは私を助けるために自らを犠牲にする道を選んだのです。それだけシロウさんは仲間思いということでしょう。


(あのままではシロウさんは………!!)


 私を投げたことで体力が無くなったのかシロウさんはその場に倒れ込む。

 倒れ込む刹那にシロウさんは私に向かって……。


「リアラ……後は頼んだ」


 その言葉を最後にシロウさんは黒色のドロドロしたものに呑み込まれました。


「シロウさぁぁぁん!!」


 黒色のドロドロしたものはナイトメアヘルのスライム状の体と瓜二つ。そのスライムに呑み込まれたということは無事ではないでしょう。

 無事ではないとわかっていても微かに無事でいてほしいという願いもありますが、結果は願い通りには行きませんでした。


「…………」

「……シロウさん?」


 シロウさんの姿が見えた時にはシロウさんの意識はありませんでした。

 しかし、意識がなくても息はしています。まるで、眠っているかのように。


「これが……悪夢を見せる能力……というわけですか……」


 普通に眠っているように見えますが、微かにうなされています。

 まだ、眠らされてから時間が浅いからでしょうか?

 そう考えていると、スライムが私に向かって来ました。


「……取り敢えず、早くこの場を離れないと……」


 私は、強化スキルを使ってシロウさんを持ち上げて逃げようと思いましたが、その逃げ道が既に塞がれていました。


「————」


 魔法を撃てば跳ね返してくる。魔法以外をろくに使えない私にとって、この現状はまさに絶体絶命。

 シロウさんに後を頼まれたのにここで私がやられれば、シロウさんの頼みを裏切ることになってしまう。


「しかし……この状況をどうやって……?」


 私がこの包囲網を突破できるかと言われれば絶対に無理です。

 ゴブリンなどでは話は違いますが、今回ばかりは私の方が圧倒的に不利です。


「……すみません、シロウさん……」


 私はシロウさんの眠る顔を見て謝りました。その時のシロウさんはさっきとは比べ物にならないほどのうなされ様でした。


 ドォォォォン!!


 そして、周りにいるスライムが襲い掛かって来る。


 私はやられる覚悟を決めて目を閉じました。


 ——………?


 おかしい……あの速さで襲い掛かってきたのなら、もうとっくに私はやられているはず……。


 どうなっているかを確認するために目を開けるとそこには……。


「何勝手に諦めてんのさ。リアさんはシロウの思いを無駄にする気?」

「……エレナさん?」


 周りのスライムを斬り裂いて動きを止めたエレナさんがいました。


 ——目が赤い……まさか、起動スキルを!?


「……私が道を開けるからリアさんはシロウを持って頑張ってついて来てね?」

「ついて来る?」

「まあ見てて」


 一瞬囮作戦かと思いましたけど、どうやらそうではないらしいです。それはそれで安心しましたけど、『ついて来る』とは一体どう言うことでしょうか。


「いくよ、……『アサルトラッシュ』!!」


 そう言った瞬間にエレナさんは二本の短剣を前に出して地面を蹴ったと思うと、私から見て前方方向に向かって猛スピードでスライムを真っ二つに斬り裂いきながら飛んでいきました。


「ついて来て、ってそういうことですかぁぁ!!」


 まさか、猛スピードで飛んでいくとは思いませんでした。機動スキルを持つエレナさんだからこそ出来る技ですね。


 エレナさんの速さに驚いていると、エレナさんのアサルトラッシュで開かれた道がスライムによって閉じていきます。

 スライムだから斬られれば再生する……常識のことですね。


「じゃなくて……早く私もついて行かないと……!」


 私は足と腕を強化スキルで強化し、シロウさんを持って閉じかけている道を走って行く。

 そして、完全に閉じる寸前に道を抜けました。


「……ハァ……ハァ……間一髪ですね」

「そんなこと言ってられないよ。あれ見て」


 エレナさんが指を指す方向は元の形に戻ったスライムの姿でした。

 そのままスライムは、私とエレナさんを逃がさないと言わんばかりに近づいてきます。


「兎に角、今は撤退ですね」

「そうと決まれば、私も残りのスタミナを振り絞って走りますか!」


 スライムが、追ってくる中、私とエレナさんは必死走って街からの撤退に成功しました。


 撤退した理由……それは、体勢を立て直すため。

 そして、シロウさんやデモービルの住民の皆さんを救う作戦を考えるために……。

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