決意

「—————ん。」


目が覚めた。一体どれくらい眠っていたのだろうか。

今の時間を知る為に窓の外を見た。


「—ぁ。もう夜か。」


最後に意識を失った時の空は太陽が出ていた。ということはかなりの時間眠っていたようだ。


「ここは…いつも泊まっている宿?」


周りを見渡すと、そこはいつも泊まっている宿だった。しかも、昨日俺が泊まっていた部屋ではない。

ということは…


「スゥ…スゥ…。」

「……やっぱりな。」


ここはリアラの泊まっている部屋だ。俺が寝ているベッドのすぐ隣にある椅子に座りながら寝ている。どうやら、夜遅くまで俺のことを見ていてくれたようだ。

というか、よくその体制で眠れるな。俺だったら絶対に無理だ。


「…さすがにこのままの体制で寝かしておくのもまずいか。」


そう思い、俺はベッドから出る。


「—痛っ…!」


あの時切られた傷から少し痛みが来た。しかし、それほど痛くはない。こんな痛みよりワニに手を噛まれた方がよっぽど痛い。噛まれたことないけど。

俺は傷の痛みを我慢しながら、椅子に座っているリアラを起こさないように抱っこをしてベッドに寝かせる。


「スゥ…スゥ…。」


どうにか起こさないように移動はできた。

それよりもよかった。俺が意識を失ってからのリアラは無事なようだ。


「…………。」


俺は何も言わずに部屋を出る。部屋を出る時もリアラを起こさないように静かに部屋を出る。




宿を出てからしばらく歩くと町の夜景を見れる展望台のようなところについた。


「こんなところがあったのか。」


俺の世界の都市の夜景とはまた違う綺麗さがあった。

あの戦いによる町の被害はほとんどないようだ。


「…全く…歯が立たなかった…。」


—くそっ。何が絶対に守ってみせるだ。ボロボロにされた挙句、結局最後は守るべき人に自分自身が守られてるじゃねえか…!

しかも、アイツは最後に俺のことを女扱いした。アイツからしたら、俺の実力なんてそこらの女性と同じということだろう。


「何が守ると誓っただ…!何が絶対に守り通してやるだ…!」


あとほんの一秒でもアイツが誰かと話し始めなければ確実にリアラは死んでいた。今回は運が良かっただけだ。ただでさえ幸運値の低い俺だ。次にこの状況になったらリアラは必ず死ぬ。


「…出来る限り殺さない…か。」


たかだか創造スキルを持っているだけで何自惚れてるんだ俺…!

こんな気持ちでこのまま戦っていけるのだろうか。やっぱり、人は殺すことでしか勝つことが出来ないのか…?

でも、もうの様な思いはしたくはない。


「本当に…このままでいいのか…?」


守ると誓った人を守れない俺。相手が絶対に負けられない邪龍神教であったにもかかわらず殺さないなんて甘い考えを持った俺。このままでいるより根本的に考えを変えて俺自身が変わった方が——


「—いいえ。シロウさんはそのままでいいんです。」


声が聞こえた。振り返ると、そこにはリアラが寝間着姿でいた。どうして俺がいる場所がわかったのだろうか?


「あ、今なぜこの場所がわかった?!なんて思いましたね?」


リアラはエスパーか何かなのか?もしくは、俺が考えてることが顔に出やすいだけなのだろうか?


「なぜこの場所がわかったかと言われましても、目が覚めたらシロウさんがいなくて手当り次第探した、としか言えませんよ?」

「…ごめん。」

「そうですよ!全く…心配したんですから!」


どうやらかなり心配をさせてしまった。寝ている邪魔をしたくない、という気持ちが裏目に出てしまった。


「本当に…心配したんですから…!」


リアラが涙を流しながら言った。そんなに泣くことだろうか?部屋にいなくて心配した、なんて理由だけでこんなに泣くものなのか?


「目が覚めたらベッドの上で寝ていて…宿の中を探してもシロウさんの姿が見当たらなくて…てっきり、昨夜の約束が守れなかったことに…責任を感じて私からこの町をひとりで出て行ったと思って…。」


そんなことを思っていたのか。あんなことがあった後だ。俺がリアラの立場なら同じことを考えているだろう。女性を泣かせるなんて情けないな…。


「…俺はリアラを守ると誓った。守るべき人であるリアラを置いて町を出るわけないだろ?」

「…はい、そうですね…。」


でも、本当にこのままでいいのか?リアラはそのままでいいと言ったが俺は未だに迷ってる。


「…私は今の優しいシロウさんのままでいて欲しいです。守るために戦うところ、ちょっとドジなところ、敵であろうと殺そうとしないところ。全部そのままでいいんです。別に無理して自分自身を変えようとしなくていいんです。」


そうだ、変わる必要なんてないんだ。人を出来る限り殺さないのも俺らしくていいじゃないか。ドジって言うのは多分いつも俺が転けることだろう。俺が道を歩いていると俺が通る道だけに何故か転ける原因のタイルの隙間やら小石がある。多分、これも不運スキルのせいなのだろう。


「…ありがとう。」

「ふふ、どういたしまして。」


守るために戦った。しかし、俺より格上の相手に負けてしまった。それがどうした。負けたのなら、次は負けないように強くなればいい。簡単な答えだ。


「よし、そうと決まれば旅に出て修行だ!元々ここに来た理由が最低限のレベル上げだし、いい機会じゃないか。」

「修行旅…ですか。それはいいですね!」


準備が完了次第出発、ということで話が終わり俺たちは宿に戻った。今度は強くなってはあの時のようなことにはさせない、と決意を抱いて。



「シロウさん…今夜は一緒に寝ませんか?」

「……………はい?」


宿に帰ってこれから寝ようという時にリアラがとんでもない爆弾発言をしてきた。この歳で今夜一緒に寝るのは色々と問題があるのだが…。


「別に、変な意味での一緒に寝ようじゃないですからね!!」

「お、おう。」


まぁ、俺の分の部屋は借りていないみたいだから金の節約になるから助かるが。

そして、結局リアラと一緒に寝ることになった。

決して変なことはしてないぞ!本当だからな!!

朝に誰かが来てこの光景を見ないよう祈りながら俺は眠った。

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