構造化心象のペリ・プシュケース

水屋七宝

第1話 導入

 ふと昔のことを思い出すことがある。


 それは、懐古的な全盛期至上主義とか好きな子のリコーダーの吹き口に妙に興奮を覚えたなどというピンポイントに恥ずかしい思い出とか、そういう話ではない。


 過去の過ちなど、この先の長い人生の中でいくらでも返上の機会がある。それにどうせ生きることそのものが恥の上塗りなのだ。


 そうではなくて、今一番心中に巣食い続けるのが、内的要因ではなく外的要因よるものだ。


 人なら誰しも思い当たるだろう。小さい頃にホラー映画を見てしまったせいであったり、見知らぬおじさんに声をかけられた経験であったり、日本人形から得も言われぬ視線を常に感じてしまったり。そういう、一生心につきまとう心的外傷・・・・俗に言うトラウマというやつだ。


 例に漏れず、俺にもそれがある。


 中学の頃までは人格の形成すら不完全であったがために被害妄想を繰り返して、表面張力ギリギリの情緒に著しく波紋を波立たせたものである。身から出た錆となれば自己解決の余地もあったろうが、これに関しては自分の力だけでは難しいものだ。


 故に、俺はここに立って決意した。高校という新たなライフステージに登った今こそ、子供であり、大人を理解する皮切りである今こそ、そういった昔の自分とは決別するべきであるのだと。


 それがきっと成長の証明だ。大人になるとはそういうことだ。すなわち中二病を卒業したという証明にもなるだろう。


 はじめは息を潜めるようにして滑り込んだ教室も、その空気感に徐々に馴染み始め、自然体で関わり会える友人にも出会えた。


 ようやくスタートラインに立った高校生活開始から約2ヶ月後の出来事だ。昼休み中教室でいつものメンバーと机を寄せて、談笑しながら昼食を摂っていたところに、懸念していた難問と対面した。

 

 ものの見事に精神的ダメージを受けたが、高校生ともなってこんな子供しか怖がらないような恐怖心に翻弄され続けるようでは男がすたると、勇猛果敢に立ち向かった。細心の注意をはらい、全神経を舌先に集中させ、させたのに。物理的ダメージを被った。


 もう、叫ばずにはいられなかった。吐き気すら覚えた。言うに及ばず周りの友人をドン引きさせ、のちに不名誉な冠名を襲名した。


「ぐええええ!さ、魚の骨が喉に引っかかったあああああ!!」


 俺、藤原寂蓮フジワラジャクレンには弱点がある。魚の骨に対する異様なトラウマである。

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