文学の教授

「あー適当言うがねぇ、アレだね。結末を敢えて冒頭に持って行くやり方をすれば良いんじゃないかな?私はやった事ないがね」


「次」


「大量に書いてきたねぇ~でもちゃんと読んでるよ?私は君たちを教える立場だから、読むのは早いんでね。

で、君は初心者だったかな?確かにそれっぽいねぇー粗削りな文章だ。

だが熱量は感じるよ。」


「次」


「えーなんかこれはすごいかもねぇ。小説を書きなれてない感じはするんだが、伏線の張り方とかが力がパワーですって感じ」


「次…は、もうないかな」


一人一人の小説を読み終えた文学の教授は背筋を伸ばして肩を回す。

この文学の授業では小説を書いて提出してもらい、それを教授が読む。

そうして一つ一つの小説を、一人一人の感想・評価を本人の目の前で伝える。


教授は有名大学出身、出版本は大ヒット、周囲の人の信頼は厚い…といった理由から教授を求めて授業に参加する人は多く、定員50名までの授業の倍率は高い。


そんな教授がここ最近で溜まった疲れでため息を付くと、生徒が一人やって来た。

生徒は開口一番に言う。




「教授はなんですか?」




教授は不思議な物を見る目で聞き返す。

「どういう事かね?」

「いえ、何でも無いです」

生徒はたったそれだけ言い、教授の前を去った…。


生徒はそれ以来、授業に参加しなくなった。







………




いや、違う。




『あの』生徒だけでは無い。




生徒の過半数以上が授業欠席?


教授は苛立つ。

50人はいたはずが40人も授業に参加せず、代わりに教室に並んである机から椅子が顔を出してこちらを見ている。


何故だ?


「そういえば先週は小説の講評だったな。

さては生徒らめ、厳しく指導されて心が折れたか?まったくこれだから若いのは…」

ぶつぶつ文句を言いつつ、教授は授業を始める。


授業が終わり資料等を片付けていると、生徒が一人やって来た。

この間の生徒とは違う、生徒は開口一番に言う。




「教授はどうしてこの間の小説を評価しなかったのですか?」




教授は不思議な物を見る目で聞き返す。あの時の様に。

「あの『本当に文学の教授か?』と聞いてきた生徒のか?

アレに関しては確か…

字が難しくってねぇ、もしかしたら拘りかもしれんが…」

「文学の教授なのに、難し言葉が出ただけで読むのを投げだすのですか?」

「いや、もっと読みやすい方が…」

「教授…







少なくとも貴方に人に物を教える素養は無いと思います」







「な、何だと!!貴様ーーーっ!!!」


教授の怒号が教室に響く。


その感情的な態度が致命的になったのか




教授の授業に生徒は来なくなった。




誰もいない教室で一人


教授は教卓の前で腕を組み


空席を睨み続ける。







「あの教授、自分が尊大で偏狭な人間である事にいつ気づくんだろうね?」

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