ロシアW杯総括 ちょっとサッカーの話

幼卒DQN

第1話 そしてサッカーは

「ブラジルのロナウドのさ、全盛期のプレーみたことあるんだけど、あれを思い出したわ」

「あー、わかる。でも、なんかムバッペのドリブルはそこまでは行ってないかな。スピードでぶっちぎるって感じ」

「そういうの出せるようにしてくのはこれからなんじゃない? ともかくこれから怪物Ⅱ世って呼ばれるんじゃないかなあ」


 ヴァッフェ・フットボールクラブは終わったばかりのW杯の話題に花が咲いていた。

「もう日本は強豪国と言って差し支えないでしょ」

 カットラスは得意満面ご陽気に練習場に現れた。

 彼女が上機嫌なのももっともで、日曜のなでしこリーグでハットトリックを決めていた。


 そこにミーティングルームの入り口をくぐるようにしてサマースーツ姿の巨漢が現れた。ヴァッフェのコーチで、名を剣という。


「さて、講義を始めよう。


 ロシアW杯。日本はブラジルW杯を反省し、南アフリカW杯で良かった点を取り入れた。細密にデータを取り、個々人のコンディションに合わせた負荷をかけた。


 コロンビア戦、日本は試合の序盤はプレッシングで行こうと決めていた。

 前半3分。クリアボールを香川が前線に流す。大迫が競り合いを征しGKと1対1、股下を狙うがこれをGKが足でセーブ。ボールは香川の前にこぼれ、シュート。これをカルロス・サンチェスが手で止め、レッドカード。


 日本からすると、多くの人が言うとおり、幸運だった。大迫がシュートを決めていたらカードは出なかったし、何よりこんな早い時間にハンドを犯してくれたことが日本にとってはありがたかった。カルロス・サンチェスが日本に勝利をくれた。彼にとって悪夢のようなW杯だった。この後、イングランド戦でもPKを与えてしまう。


 名うてのスピードスター、クアドラードとの1対1は長友がきっちり征した。すると31分、コロンビアはあっさりと右サイドからの突破を諦め、クアドラードを下げてしまう。

 長友が衰えた未来を考えると寒気がする。


 2-1になった後半、1人少ないコロンビアはリトリートし、ボールを奪ってからのロングカウンターを狙った。日本は追加点を狙って攻めた。

 

 日本は、それでカウンターを喫して追いつかれるようならまあ仕方ないよねと考えていたのだろう。いや、そこまで想像が及んでいないのかもしれない。向こうが引いているのだから攻めるのだと。サッカーは打ち合いをしてナンボだと。1人多いから点を取られることはないだろうと。

 甘い。角砂糖10個入りのコーヒーより甘い。


 あの場面は攻めずにポーランド戦終盤のようにパス回しして時計の針を進めるべきだ。もちろんコロンビアが黙ってそれを許すわけもなく、仕方なく前に出てくるだろう。そうするとコロンビア陣地にスペースができる。それから攻めるべきだ。より得点を取るのが容易になる。実に単純明快な話だ。ブラジル、メキシコ、クロアチア、フランス辺りはこの辺の判断が当たり前のようにできている。



 今回のW杯ではリトリートの有用性が顕著だった。イングランドプレミアリーグは特にリトリートに信頼を置いている。リトリートして堅陣を布くと強豪でも点を取るのが困難だ。

 リードしているにも関わらずわざわざコロンビアの守備が整っているところを攻めるなんてコロンビアにカウンターのチャンスを与えているに過ぎない。個人能力はコロンビアの方が高い。油断していい状況ではなかったはずだ。



 セネガルはある程度前からプレッシングを掛けた。しかしその分自陣にスペースを空け、日本の攻撃を受けた。セネガルも先制した後リトリートしていれば日本は苦しかったはずだ。セネガルのスピードを活かすロングカウンターは脅威になったはず。セネガルも、日本を過小評価していた。日本代表の選手のレベルは、ブラジルW杯と比較して一回りレベルが上がっていた。しかしハリル政権下、日本人の良さを発揮できずにいた。その点は今回のW杯、日本に有利に働いた。


 日本が負けているときにセネガルに一人負傷者が出て倒れたシーンがあった。日本はボールを外に出す。

 実に日本らしいフェアプレーと言える行為だが、セネガルに強いタックルはしてくれるなとお願いする意味もあったかもしれない。


 中三日で行われたポーランド戦、西野監督は選手の多くを入れ替えた。

 おそらく、決勝トーナメント進出の可能性がなくなったポーランドが手を抜いてくれる可能性に懸けたのだろう。だが目論見は外れた。


 今回のW杯、今野が健康でロシアに連れてきていたら……と何度思わされたか判らない。58分、山口のパスミスからボールを奪われ、その流れから山口がファールを犯してFK。ゴールを奪われた。


 西野監督は岡崎に非常に期待していた。怪我に苦しんでいても見捨てられずロシアに連れて来た。しかし失敗に終わった。

 一番の誤算だった。結果論だが代わりに中島を選んでいたら切り札として、乾のバックアッパーとして、有用な存在になれただろう。

 一方で乾はよく怪我から回復し、期待通りの活躍を見せた。中央に切り込んでの2得点は鮮やかだった。


 他会場ではコロンビアが1点リード。このまま行けば日本は決勝トーナメント進出。

 西野監督は、パス回しをするよう指示。日本は、ポーランドに土下座して試合中止を嘆願した。

 負けている日本が攻めてこない。


 GLでの敗退が決定しているポーランドは、最後までサッカーをして国民に見せたかっただろう。だが、日本の意を汲んだ。忖度そんたくしてくれた。

 


 日本を非難する人達の気持ちはわかる。一番の犠牲者はポーランドか。

 日本代表はブーイングを浴びた。

 でも仕方がなかった。

 

 何より凄いのは西野監督の精神力だ。

 もし、他会場でセネガルがコロンビアに追いついたら? 日本はGLで敗退。

 

 その時、西野監督は日本中からあらん限りの力でもって批判されただろう。

 いてはサッカーのイメージがどん底にまで失墜。バカな日本代表。闘うことを放棄しコロンビアが勝つことにすべてを懸けた愚将が率いたお笑い日本代表。

 そんな汚名を受け、日常生活に支障が出ることを、覚悟しながら。

 

 本田は試合後『西野さんはリスクを取りにいった。個人的には、素晴らしい采配だったと思う。僕が監督でも、この采配はできなかった。結果がすべて。西野さんはすごい』と語っている。

 日本代表は、大きな傷を負った。

 本当に、コロンビアが追いつかれなくて良かった。


 

 ベルギー戦。前にも言ったが日本は欧州のチームと相性がいい。欧州の選手は敏捷性に乏しく、バイタルエリアまで侵入できればチャンスを作れる。

 ベルギーとはここ数年に2度親善試合をしていた。ザックの時は勝ち、ハリルの時は負けている。どちらもベルギーは流している、つまり本気ではないように見えた。プレスが甘かった。


 始まってみると、リトリートして、日本に好き放題やらせる。おんなじだ。W杯本戦なのに。

 既視感があるなと思って考えてみるとサウジやUAEのやり方だ。ギリギリまでプレスはしない。体力を温存する。

 しかしここは灼熱の中東ではない。日本は存分に力を発揮した。 

 例えば、スペイン代表はチキタカを強く意識するようになる21世紀に入ってから、ベルギーに5連勝中だ。ベルギーの緩いプレスはパスサッカーにとって与しやすい。


 おそらく、日本にボールを持たせ、ベルギーは深く引いて日本を上げさせ、日本の裏のスペースをカウンターで衝く目論見だったのだろう。

 だが日本のパスワークはベルギーの想像を上回っていた。作戦は失敗に終わる。


 コロンビア戦、セネガル戦と、真っ先に代えられたのは香川だった。どちらの試合でも香川は次第に存在感を失っていった。前を向いてボールを扱えないと香川は力を出せない。

 しかしこの試合は違った。香川は自由を得、リンクマンとして伸び伸びプレー。香川の日本代表ベストマッチと言える活躍ができた。乾との息の合ったプレーは脅威だった。


 今回のW杯、それ以上に輝いたのが柴崎だ。中盤の底の選手としてはフィジカルコンタクトは弱いが、技術と知性は目を見張るものがあった。理想的なレジスタだった。

 おそらく、高いレベルに挑戦することになるだろう。



 ベルギーボールになっても日本には余裕があった。いい形でボールを奪えないベルギーはパスサッカーをしてきた。

 これにも既視感があった。体格で優位ながらそこで勝負せず、テクニックで突破を図る……」

「オーストラリア!」

 モーニングスターが叫ぶ。

「そうだ。ポステコグルー政権下のオーストラリア。日本に対しパスサッカーで崩そうとした。ストロングポイントを活かさずウィークポイントをパスサッカーの国、日本にぶつけてきた。

 

 その点ではベルギーは少し事情が異なる。デ・ブライネやアザールのようなスキルフルな選手がいる。オーストラリアよりパスサッカーに適性がある。

 が、そこでの頭脳戦は依然日本に分がある。ベルギーが仕掛ける地上戦を日本は防ぎ続けた。

 日本は首尾良く2点を先取。ベルギーは困惑していた。


 65分。ベルギーは194cmのフェライニを投入。ハイボールを放り込む戦術に切り替えた。

 空中戦は日本のウィークポイントだ。さっきと逆の構図。ストロングポイントでウィークポイントを攻める。

 日本の劣勢は必至だった。そこからのポゼッションはずっとベルギー。


 69分。フェルトンゲンがヘッドで中にハイボールを送る。川島はあまりに無警戒だった。ヘッドはミスになりゴールに向かい、サイドネットに吸い込まれた。いつボールがゴールに飛んでくるか判らない。いつだって備えておくべきだ。そんな基本的な心構えを川島は失っていた。ベルギーをミスなどしないものだと。リスペクトし過ぎていた。

 コロンビア戦で喫したFKも判断ミスという意味では防げたものだった。川島は当初ボールスピードからキャッチできると踏んだ。しかし途中から路線変更。……間に合わなかった。GKは基本的にセーフティなプレーを心がけるべきだが。


 だが。

 前にも言ったな。日本人は背が低い。高身長が必須のGKに必要な人材が得がたい。おそらく、東口も中村も川島より能力が低い。何より大舞台の経験に乏しい。

 仕方がなかったのかもしれない。まあ、川島の調子が悪かったことは否めないだろうが。


 高さで日本を蹂躙。フェライニのヘッドで2-2。

 94分。日本はCKを得る。

 

 同点だったが、勢いは完全にベルギー。このまま延長戦で空中戦を防ぎきる自信はなかった。加えて前の試合で日本より多くの戦力をターンオーバーしたベルギーは体力面でも優位。2チームの総走行距離はほとんど変わらないが、前半のベルギーはほとんどプレスしなかった。ポゼッションはベルギーの方が上。


 鳥カゴをやっているお前らは知っていると思うが、中の守備役はかなり疲れる。反復横跳びは短距離走よりずっと疲れる。後半日本はプレスで体力を奪われた。

 満身創痍。ここで決めたかった。時計を見て、カウンターを食らう危険も少ないと考えた。しかしボールはクルトワがキャッチする。


 この後のカウンターを防ぐチャンスはここだった。クルトワは素早くスロー。

 ある一定のレベルにあれば、誰かが必ずGKのプレーを邪魔するところだ。カウンターのチャンス。反則を取られてでも、体をぶつけに行かねばならなかった。

 日本人はモラルが高い。ファールが少ない。でも、サッカーには、効果的なファールもある。日本人の苦手なところだ。


 スプリント力に差があった。

 山口は途中で足を止めてしまう。ベルギーに取ってみれば予測しやすくプレーを組み立てやすくなった。香川は右サイドムニエのパスコースを切らずに中に入ってきてしまう。

 おそらくベルギーの練習通りの形。ムニエのクロスをスルーしたルカクが素晴らしかった。


 試合後に大迫は悔いた。『本当に悔しいですし、2点リードしてからの試合運びが良くなかったと思います。後ろに重心がかかってしまって、相手の思う壺というか、ミスからピンチを招いた形になったと思います。2-0のまま、キープすることをもっと意識すべきだった』


 日本は2点リードしても攻め続けたがベルギーは驚いたようだ。日本が空けてくれたスペースを活用して反撃。ベルギーが1点取ると日本は混乱しながら急に守勢に回った。

 空中戦に優れるチーム相手にリトリートはいけない。ハイボールを放り込むだけでピンチになる。逆に言えば高さのあるチームがリトリートすると非常に堅くなる。ブラジルW杯、日本は1人少ない専守防衛のギリシャから点を奪うことができなかった。南アフリカW杯、スペインが優勝するがそのスペインもGL初戦でオーストリアの守りを崩せずに敗北している。俺達が戦ったFC不労人間もそうだ。


 日本は攻めずにパス回しすべきだった。ボール保持率を高め、守備の時間を減らす。相手が前に出てきたら、空いたスペースに出て攻撃に転じる。

 だが、日本にとってパス回しはマイナスイメージになっていた。

 伏線はあった。


 4年前、ポゼッションで挑んだブラジルW杯は惨敗。

 前の試合、ポーランドに談合を申し込んでパス回しで時間を潰し、叩かれた。

 ドイツ、スペインがパス回ししてもボックスに入れず、敗北したのを日本は見た。


 もう、日本にパス回しでポゼッションするイメージはできなかった。

 大迫は『鹿島り』のアントラーズに6年在籍していた。おそらく大迫の言った『2-0のまま、キープすること』というのはボールキープして時間稼ぎすることを意味することだと思われる。


 ポーランド戦のパス回しで、日本中にパス回しは恥ずかしいことだ、というイメージが広まった。

 面白いのはスペイン各紙が日本を強く非難したことだ。今回のスペイン代表を見れば判る。チキタカが、スペインのサッカー。


 どういうことか。

 パス回し、が悪いのではない。ポーランドに談合を申し込み試合の娯楽性を減じたこと、そしてコロンビアの勝利に日本の運命を委ねたのが悪いと言っているのだ。

 ただし、日本は決勝トーナメント進出を勝ち得た。いい取引だったと思う。もやっとするけど。


 ベルギー戦後、西野監督は言う。『(ポーランド戦の後なので攻撃的なサッカーで)みんなを見返してやりたいという気持ちはあった』

 繊細すぎる。そして2点差あるから大丈夫とベルギーを舐めすぎていた。



 以上の事情から、日本はパス回しを選ばなかった。

 サッカーにおける2点差リードは、点差以上に有利だ。ベルギーに猛攻を強いることができ、日本は空いたスペースでカウンターを狙える。2点差逆転は、ドラマティックな試合として称えられ、観衆を楽しませた。


 この試合で日本の弱点は鮮明に世界に発信された。空中戦だ。

 ベルギーは後半途中からやり方を変えたが前半からフェライニを使ってハイボールを放り込んでいればより簡単に日本に勝てただろう。


 この弱点は克服が難しい。日本にとって欧州勢は与しやすい相手だったが今後は苦戦するかもしれない。カタールW杯、日本は高身長の選手への対処を考えておく必要がある。

 一つの対抗策としてはメキシコの守備が参考になるだろう。サイドに人数を配してクロサーにマークを付ける。普通は中央を固めるのがサッカーのセオリーだが日本の事情を考えると絞らないほうがいい。ドリブルで抜かれる分には仕方ない、クロスを蹴らせないような守備を重視するべきだ。またセットプレーは極力与えない。



 日本はハリルを雇い縦に速いサッカーに夢を見て、現実を知りややポゼッション寄りのサッカーでW杯を戦った。

 その間、日本の針路は揺れた。しかしようやく定まった。いい塩梅だと思う。もっと決断が早ければ、より強い日本が見られただろう。


 おそらくカタールW杯予選は日本にとっていばら……ではなく舗装された道だ。中東の笛にはAFCが紐を付けている。もうアジアレベルでは通過して当然だ。内容と結果が両方問われるだろう。


 今日、日本代表の監督が森保監督に決まった。

 本当は外国人監督の方がレベルは高いだろう。だが、外国人は日本人を理解するのに時間がかかる。だから、日本人だ。ギャラも安くて済む。

 有望株ひしめく東京五輪世代からの抜擢もあるだろう。3バックをやるのかどうかも興味があるところだ。

 

 南米選手権に出るという話もあるがどうなるか。日本が本気の相手と戦える数少ない機会だ。コンフェデもなくなったことだし出場しておきたい。ボロボロにされるだろうが現実を知りまた強くなるチャンスだ。

 まるで日本が一躍強豪になったかのように言う者もいるがそんなに甘くない。日本は11人のチームには勝てなかった。

 選手は消耗品だ。今、好調の選手も金属疲労で衰えるし、怪我をするかもしれない。やはり南米勢は天敵だろう。本気で来てくれるかどうか判らないがチリ代表と組まれた親善試合でハイレベルのポゼッションサッカーをレクチャーしてもらえるかもしれない。



 ところで。ポゼッションサッカーってなんだろ。

 

 ポゼッションサッカーはボール保持率を上げるサッカーだ。縦に遅いサッカーだ。

 将棋棋士羽生善治は『終盤は誰が指しても同じ』と言った。これはサッカーも共通する部分がある。ポゼッションだろうがカウンターだろうが、攻め入り数的有利になったらやることは変わらない。スペインだってチャンスになれば速く攻める。

 ボックスに入ったら速さが大事だ。グズグズしていたらDFが戻ってきてしまう」


 剣はホワイトボードに一つの式を書いた。

「では、何が違うのか。それは、期待値の計算だ。

 縦に遅いサッカーはボール保持率を上げるサッカーだ。

 [そのプレーが成功する確率] ×[そのプレーを成功したときにどれだけ有利な状況になるか] =期待値。この計算が正しくできる選手は頭がいいと言われる。頭のいい選手は期待値の高いプレーを選択する。

 ポゼッションの場合、[そのプレーが成功する確率]にマイナスの補正をする。つまり安全なプレーを選択する。駆け引きをして相手の裏をかく、技巧と知性を要求するサッカーだ。

 

 もちろん、縦に速いサッカーはプラスの補正をする。するとより難度は高いが攻撃力のある選択をする。難度の高いプレーを選択するのが縦に速いサッカーだ。シンプルに空中戦で勝ったり、スピードで勝ったりする身体能力が求められる上下運動の多いサッカーだ。


 [そのプレーを成功したときにどれだけ有利な状況になるか] が高いプレーは得点機を生むプレーだ。これが高いとどのチームもそのプレーを選択することになる。つまり、終盤は誰が指しても同じ、になるわけだ。



 ロシアW杯は堅く守ったチームが勝ち残った。

 一方、スペインは大会前日に監督交代し、ピケが謎のバンザイでロシアにPKを与え、敗北。

 ドイツは人種差別問題で揺れた。トルコ系ドイツ人のエジルはW杯終了後代表引退を表明。

 両チームとも、ボールを支配するものの創造性ある選手を欠き、チャンスをつくれなかった。ドイツには高さという武器があったが韓国のスタメン平均身長は183.8cm。空中戦はさほど優位にはならなかった。


 そうしてリトリートを崩せず、今大会はセットプレーからのゴールが4割を超えた。地上戦で崩すのは難しく、高さが重要な大会だったと言える。日本もベルギーにやられた。


 イングランドはまさにそんなチームだったが、3位決定戦ベルギー戦、リトリートされ高さでも勝てる相手じゃないともう攻める手段がなくなった。GL第3戦ベルギー戦ではCHロフタス=チークが驚嘆するようなフィジカルで突破を見せた。要注目だ。

 クロアチアは知的でタレントも揃い、個人的に優勝候補だとみていたがデンマークとロシアを90分で仕留めきれなかったのが尾を引いてイングランド戦も延長に。フランス戦はもう体力面で厳しかった。

 フランスは堅実に戦ってタレント力で優勝を手にした。サッカーには往々にしてあることだ。勝つことに徹するとサッカーは地味になる。前に俺は言ったな。最も強い戦術はリトリートしてからのカウンターだと。華やかさに欠けるが、その分、トレードオフがあって強い。

 優勝したフランスを糾弾する者は少なくない。サッカーを芸術だと考えるスペインなどはこのようなサッカーを嫌う。アンチ・フットボールだと。そんなスペインだからポーランド戦の日本を非難した。


 ヨハン・クライフは言った。

『醜く勝つくらいなら美しく負けた方がいい』


 勝つことと美しいサッカーをすること、おそらく前者の方が重要だ。美しいサッカーをしようとして惨敗してちゃいけない。

 だが、打ち合わないボクシングや掛け逃げばかりする柔道、守ってばかりで前に出ない、かつてのセリエAのようなカルチョじゃ、客が減るのは必然だ。



 ブラジルはベルギーに対し優位に試合を進めたがクルトワの威圧感に屈した。ただし繰り返し試合をすればブラジルが勝つ試合の方が多いはずだ。ジェズスに背番号9を託すのは時期尚早だったかもしれない。ネイマールは痛がる演技をやり過ぎてイメージが悪化。フランス脱出が遠のいた。速すぎてどこのDFも体で止めに行くしかなかったから、かわいそうにも思う。

 アルゼンチンはタレントがアタッカーに偏りすぎ。いっそ腹をくくってメッシをトップ下に置き、打ち合いに持ち込んだ方が良かったのではないか。攻撃の形さえ作れればたくさん点を取れるチームになれたはず。

 もしくは監督を代えてメッシとマスチェラーノを教師にバルサ風ポゼッションをやってみてもいい。守備力がないならボール保持率を高め守備の時間を減らす。まあ、アルゼンチンにポゼッションの文化はないから相当な意識改革が必要だが。



 VARは素晴らしかった。

 今まで選手が審判の目を盗んで行われてきた数々の悪事が白日の下に晒された。

 反則だと判断されると映像室から連絡が主審に伝わる。しかしPKなど重大なファールになると主審が映像を確認しにピッチを出た。


 この時間が空白になる。無駄。何度も確認した映像室の判断をくつがえす主審はいないだろう。即座に判定を下すべきだ。つまり映像室の審判達に高い地位を与えるべきだ。

 日本は汚いファールをする文化がない。VARは日本にとって有利にはたらくはずだ。



 Jリーグでは少しずつDAZNマネーの効力が現れてきた。

 イニエスタ。かつてジーコやドゥンガがサッカーとは何たるかを鹿島と磐田に叩き込んでくれたように神戸にチキタカを伝道して貰いたい。イニエスタは謙虚過ぎて指導者向きではないかもしれないけど。あわよくば引退後も神戸に居着いてもらえればと思う。CWCでの滞在から日本を気に入ったようだし。

 鳥栖にもトーレスが来た。身体能力に優れ化学反応が期待できる。

 もっともっとだ。大物を獲ってJリーグを世界に発信したい。こんなに戦力が均衡したリーグは珍しい。それは魅力だと思う。今、Jリーグに足りないものは勝利への執念とチームそれぞれの個性だ」




※ この文章は僕の書いた小説の外伝になります。まあ、そっちを読んでなくても問題ないでしょう。

 

 さて、これでしばらくサッカーについて書くことはないでしょう。次に書くのは流行に乗って異世界転生ものです。今しばらくお待ちくださいませ。 

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