日本←→異世界をハーレムパーティで挑むなんて間違ってる!?
うみ
第1話 俺の周りには女子が多い
高校生活最後の年になったが、大して変わり映えはしない。夏が過ぎればみんな変わってくるかもしれないけど、変わらぬ日常だ。
俺もそろそろ将来のことを考えないとなあ……。
なあんて思いながら、教室の窓から外を眺める。グラウンドでは体育の授業が行われていて、グダグダしながら走っている生徒の姿が見えた。
「
「ん」
隣の席に座る黒髪ロングの女子に肩をゆさゆさとされてハッとなる。
あ、やべえ、寝てた。
顔をあげると、黒板の前でにこーっと微笑む先生の顔……。やっちまった。
「す、すいません」
「まあいい、叶君、ではここから読んで」
俺は慌てて英語の教科書をパラパラとめくるが、どこを読めばいいのか分からない。
「良辰くん、ここ」
「あ、ありがとう」
小声で彼女に礼を言ってから、教科書を読む。
まあ、こんな感じで眠くなる昼下がりだったわけだ。いつもと変わらぬたわいない毎日。そう、この時まではそうだった。
◆◆◆
「さっきはありがとう、
「ううん、良辰くん、気持ちよさそうに眠っていたから迷ったけど……」
申し遅れたが、俺は
そして、黒髪ロングの前髪ぱっつんヘアーの女の子は嘉田まりこ。彼女は少し抜けたところがあるけど、世話焼きでおっとりとした容姿も相まってクラスの男子に密かに人気がある。
中途半端に寝たからか、また眠気が……。ん、まりこの机の上に大量の本があるな。
「嘉田さん、それは?」
「図書室に持っていくの」
まりこは控えめな笑みを浮かべ、本の表紙を撫でた。
「そんなに借りてたんだ。手伝うよ」
「大丈夫だよ?」
「さっきのお礼だって」
積み重ねられた本をひょいっと持ってみたが、結構重たい。俺でもこうなのだから、まりこが持つとよろめきそうだぞ。
「じゃあ、また明日」
今日の授業はもう終わりだから、まりこにそう告げると彼女は「待ってえー」と後ろからついてくる。
「いいのに……」
あと、そ、そのだな。まりこが走るとそ、そのお。ゆさゆさと、いや何でもない。
「どうしたの、良辰くん?」
「あ、いや。なんでも」
「少し、頬が赤いけど……」
「ちょ……」
下から俺を覗き込むように見つめてくるものだから、目がつい胸に行ってしまうじゃないか。
彼女は自覚しているんだろうか? たぶん何も意識していないと思う。無防備だよなあ。
「な、何でもないって!」
「変な良辰くん」
俺は彼女から顔をそらし、スタスタと前を歩く。
図書室はすぐそこだ。
放課後だからか図書室にいる生徒はまばらで、こんな時間にいるのは彼女くらいのものだろう。
ほらいた。
凛とした佇まい、人を近寄らせぬオーラを放つクールビューティこと三条つばさが読書している。
長い髪を首の後ろ辺りでまとめ、制服のスカートも短くしておらず膝下。笑うと可愛いと思うんだけど、彼女の笑った顔を俺は見たことが無い。
あ、彼女と目が合った。そ、そんなムッとした顔をしなくたっていいじゃないか。
彼女は読んでいた本をパタンと閉じるとツンとした様子で本を棚に戻す。一体どんな本を読んでんだろう……興味が出て来た。
「良辰くん、どうしたの?」
まりこが不思議そうに首を傾ける。
「あ、いや、少し気になることがあってさ。まずは本を返却しよう」
俺とまりこが会話している間にもつばさは図書館から出て行ってしまっていた。
受付に大量の本を置きながら、俺は小声でまりこへ囁く。
「さっきさ、三条さんが本を棚に戻したんだよ。どんな本を読んでるか気にならない?」
「うん!」
声が大きいよ、まりこ。
「つばささん、どんな本読んでいるんだろう? 相対性理論とか?」
「それ、知っている難しい言葉を使っただけだろう……」
俺は辞書を推すね。
ワクワクしながら、本棚に向かい先ほどつばさが戻した本を出してみる。
え? ええ。
思わずまりこと目を合わせる。
「嘉田さん、これは内密にしよう」
「そうだね……」
まりこは見てはいけないものを見てしまったという風に頭に手を当て可愛らしく舌を出す。
だって、この本はピンク色がとてもよく似合うメルヘンチックな可愛らしい本だったんだもの……。さっきつばさがムッとした顔をしたように見えたのは、バレたとでも思ったんだろうか。
俺だって彼女の沽券にかかわるような問題をおいそれと言うつもりはない。しかし、見てしまったものは仕方がないのだ。あ、あのつばさがなあ。
「良辰くん」
「あ、ごめん。せっかくだからこれ、借りていくよ」
「んー、あー、良辰くん」
口に手を当ててやーんやーんと首を振るまりこだったが、勘違いしないで欲しい。そうではない。まりこの考えているようなラブな話ではないのだ。
「同志、それはゆめちゃんにですか?」
不意に足音もなく後ろから話しかけれられたものだから、思わずのけぞってしまう。
平静を装って振り向くと、お団子を左右に作った女の子がにへーと笑みを浮かべていた。彼女は
見た目は抜群なんだけど、サバゲ―が趣味でこの喋り方だから避ける人がいるのも分からなくもない。
「うん、そのつもり。せっかく見つけたしなあ」
答えながら、尻尾があればフリフリと振っていそうな萃香へ本を手渡す。本を受け取った彼女は待っていましたとばかりに本をペラペラとめくりはじめた。
「なあんだ。ゆめちゃんって、良辰くんの妹さんなのかな?」
「うん、そうだよ。こういうの好きかなって思ってさ」
事態を理解したまりこは残念と人差し指を唇に当てる。
ゆめは俺の三つ下の妹で、現在中学三年生。なんとそこの萃香と中学の時に交流があったのだ。なので、彼女は妹の好みを知っているというわけなんだ。
「同志、これならゆめちゃんも気に入ってくれると思います!」
「そうか、俺の勘はばっちりだったわけだな」
萃香から本を受け取ると、俺は満足気にうんうんと頷く。
「嘉田さんはこの後、部活があるの?」
「わたしは部活休みだよ。良辰くんは?」
まりこはこの後はすぐ帰宅するらしい。
「俺はこの後、部室に行くつもりだよ」
俺は生物学部なのだ。お魚ちゃんたちとトカゲくんへ餌をやらねば。俺が来るのを彼らが待っている。
ふふ。
「同志、自分はこれから戦場であります! では!」
悦に浸っていたら、萃香がシュタッと手をあげ敬礼し去って行った……。
彼女はサバゲ―サークルを作ったそうで、部員がいるのかは不明。噂では彼女一人かもしれないとかなんとか。
教室までまりこと戻り、彼女とここで別れる。そのまま生物部の部室に行き、餌やりをしてから帰路につく。
んー、日が暮れるのが遅くなってきたなあ。春のうららだのお。快適快適。
なんて思っていたら、冷たい風が吹き抜け体がブルリと震えるのだった。
◆◆◆
帰宅すると、ゆめが居間でテレビを見ていたのでさっそく彼女へ借りて来た本を手渡すことにした。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
ゆめはひまわりのような笑みを浮かべて本を胸に抱き、首を左右に振って悦びを露わにする。
彼女が首を振るとツインテールがも合わせて揺れ子供っぽく見えるんだけど、それがまたいいのだ。小さいと思っていたけどもう中三なんだよなあ。
時が経つのははやいものだ。でも、彼女は背の順で一番前らしく、そのことを気にしている。小さいは厳禁だ……言わないようにしないと。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「あ、いや。先に風呂へ行ってくるよ」
「そうなのー? あ、じゃあ。久しぶりに一緒に入るー」
「こら、もうそんな歳じゃあないだろ。いつまでも『小さい』子供じゃ……」
「あー、お兄ちゃん、言ってはならないことをお」
し、しまった。つい。
ぶーと頬を膨らませて腕を組むゆめ。
「ごめんごめん、明日プリン買ってくるから」
「ほんと! やったあ」
ちょろいやつめ……。ふふ。ゆめの表情は途端に明るくなりご機嫌そのものとなる。
彼女の機嫌が戻ったことだし、風呂へ行くとしますか。
そんなわけで風呂である。いやあ、風呂に浸かっていると一日の疲れが吹き飛ぶね。
日本人たるものこうでなければ。
ん、風呂の扉の向こうにうっすらと人影が見える。我が家の風呂扉はよくある白で光を通す素材でできているから、影だけは見えるんだ。
影だけとはいえ、俺は誰がそこにいるのかすぐに特定できる。何故なら、この家には今俺とゆめしかいないのだから。
「ゆめ、どうしたんだ?」
「一緒にはいるー」
「それはさっきダメって言って……」
あ、言ってないや。
「いいか、脱ぐんじゃないぞ。すぐ出るから」
「えー」
ほんと、こういうところはいつまで経っても子供なんだから。
中三の妹と一緒に風呂へ入る兄なんていないってば……。
風呂からあがり、テレビを見ていたら母さん、続いて父さんが帰ってきて夕食になる。食べたら部屋へ戻りダラダラとソシャゲをやっていると眠くなってきた……。
急ぎ歯磨きをして布団に入ると、すぐに意識が遠くなっていく……。
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