第2話 ステータス

こちらの世界に来てから一週間くらいが経った。

 今の俺の現状を一言で言うなら"今すぐ逃げ出したい"だ。


 まず俺達が召喚された理由というのが皇帝アルドラ・フォルネとかいう王様が言うには今俺達が居る国、フォルネ帝国を救ってほしいという話であった。


「恥を承知で頼む。この国の為に戦ってはくれないだろうか」


 真摯な態度を取る皇帝に俺は興奮が止まらなかった。

 なんとも現実離れした出来事であり、ゲームみたいな展開になっていたりと俺の頭はパンク寸前だった。

 他の皆もそうだった筈だ。実際に皇帝の申し出に誰もすぐには答えられなかったが一人だけ、その申し出に答えた奴がいた。


「僕たちはその話、受けようと思います」


 そう答えた人物をその場にいた全員が凝視する。

 原田翔輝、俺が嫌いな奴だった。

 今でこそ俺を除いた他の皆は感謝しているだろう。

 今の自分たちの生活があるのはあの日の翔輝の決断があってこそなのたがら。まあ俺は今もの凄く迷惑してるけど…


 翔輝の決断に異議を唱える奴もいたが帰る方法が分からない以上、せめて生活が出来る場所は確保すべきだという翔輝の意見を聞くと皆それに従った。

 俺も漫画やラノベなんかでこういった展開はよく知っていたので特に反対することはなかった。むしろ城に厄介になった方がこの先の考えらるイベントなんかに巡り会えそうだと思ったほどだ。


 しかし…そんな事は一度も起きなかった。


 次の日、俺達は勇者としてこの国を救うべく訓練をすることになった。

 救うとは具体的に言うと、この国の隣国であるサルナ王国との戦争で勝利することが当面の目標になっている。

 現在この国は食糧不足が続いており、小さな都市なんかは荒れているそうだ。

 それを解消するためにも金や食糧なんかが必要だそうで、隣国に戦争を仕掛けたらしい。

 元々、何年間も互いに小競り合いはあったため戦争も時間の問題だと言われていた。


 でも絶対にアホだというのはこの時点で俺は理解してしまった。

 戦争仕掛ける暇があるならまずは作物を育てろよと言いたくなったのはここだけの話だ。


 まあそんな訳で、俺達は強くなるべく最初はステータスを確認するところから始まった。

 それはもう堪らないほど楽しみだった。なんせ隠れヲタだった俺に異世界転移自体テンションが上がるのに、その上ステータスを確認するなんてちょっとした夢が叶った感じだった。

 だが現実とはどこの世界でも非情であると認識させられた。俺は自分のステータスがここまでだとは思いもしなかった。


 名前:カナタ

 種族:勇者


 耐久力:200 攻撃力:150 敏捷:180 魔力:150


 スキル:不死者、魔力耐久力上昇



 何これ?

 スキルはともかく、このステータスって高いの?

 疑問に思ったが、きっと高いだろうと思い他の奴のステータスに聞き耳を立てたが、それが間違いだと分かるのに10秒もかからなかった。

 特に翔輝ショウキのステータスは異常の一言だった。



 名前:ショウキ

 種族:勇者


 耐久力:2800 攻撃力:3000 敏捷:2700 魔力:2200


 スキル:英雄化、物理耐性上昇、物理攻撃上昇、魔法攻撃上昇、魔法耐性上昇



 どこのチーターだよ。

 何だよ英雄化って…

 ガチの"勇者"じゃんか…

 まあそれらしい要素はあったし、なんかここじゃあリーダーみたいな感じで仕切ってるし、色々と腑に落ちてしまう。


 もしかしておれってモブ枠なの?


 俺以外の連中もショウキほどではないがそれなりのチーターだった。なにせ大体はどの値も1000は超えている奴がほとんどだった。

 その中でもショウキの次に出鱈目だったのが高梨さんだった。



 名前:リカ

 種族:勇者


 耐久力:2900 攻撃力:1200 敏捷:990 魔力:4020


 スキル:癒す者、高速治癒、魔力効率化、危機感知、

 


 英雄化のスキルを持つショウキの魔力の倍近くを保有している。流石になんとも言えない。

 いや、本当になんとも言えない。

 俺のスキルが彼女の存在で霞んでしまいそうだ。

 高梨さんがいればまず、死なないだろう。そんな蘇生キャラが居るのに俺のスキルは意味を為すのだろうか?

 これなら俺ももっと強そうなスキルが欲しかった。

 まあ接点のない俺は回復魔法をかけてもらえるかも怪しいが…

 唯一俺が喜んだのはこの世界では俺達の名字は消えているということぐらいだ。めちゃくちゃ些細なことだが、おかけでショウキとも間違われるようなことはなくなった。


 しかし、俺は再度ステータスが書かれた紙を見て、

 改めて感じた。これはまずい。本当におかしい。いくらなんでもここまでの雑魚は居ないだろ。これで勇者ってネタもいいところだ。



 そしてこの一週間、俺以外の奴は訓練に励んでいる。

 何故、俺以外かというと俺のスキルである"不死者"は欠損部位の修復が可能という感じのスキルで他にも色々と説明が書かれてあったが、要はどんな状態になっても死なないということらしい。もちろん毒なんか飲んでも死なないのだ。これには俺も驚いた。実際に試してみたが大量に毒物を飲んでもピンピンしてた。お腹はいたくなったが…


 俺も中々なチートスキルを持ってしまったみたいだ。

 よく考えれば回復魔法も必要がないから強力なことに違いはない。だがそんな素晴らしいチートスキルも、バッドステータスの前ではその効力を十分には発揮出来ない。俺のステータスがデバフをかけられている訳でもなくこれが通常なのだから堪ったものではない。

 最初の頃よりかは多少ステータスは上がったが、それでも兵士1人にも勝てない程まだまだ雑魚で脆弱なのだ。

 俺達を訓練しているこの国の騎士団長であるガルダは、そんな俺に目も当てられず、ある訓練を提案してきた。


「カナタ、お前明日の訓練からショウキ達の相手になってくれ」


 というものだった…


 俺の死んでも再生するというこのスキルを使ってショウキ達に対人戦の訓練をさせ、人を殺すことに少しでも抵抗を減らせるように、というのが本音だろう。


 もちろんそんないじめられる損な役回り、だれが

 YESなんて答えるんだよ…


 俺はきっぱりと言ってやった。


「え、嫌なんですけど」


「あいつのためにもなるし、頼む。それにお前だってそんな低いステータスじゃ他の奴の足を引っ張るだけだろ?」


 こいつ喧嘩売ってんのか?


「俺は隅で引き籠っているんでお構いなく」


「そうは言ってもなあー」


 そんなやり取りをしていると、ショウキが横から話に割って入って来た。


「おい、それ以上ガルダさんを困らせるなよ。大体お前もまともに訓練をしろよ!これは俺たちの為でもあるんだぞ!」


 少し息を荒げ、上から目線な事を言ってきた。


「おいおい、これでも俺は精一杯やってるんだぜ?

 俺は庶民だからな。お前たちみたいに天才じゃないんだよ」


「ならせめて、俺達のサポートに回ろうとも思わないのか?」


 何こいつ?

 お前のサポートをするためにサンドバッグになれってか?

 どこのマゾだよ。


「他を当たってくれ」


 その言葉を最後に俺はその場を後にした。

 全く付き合ってられない。これが日本なら完全にアウトだろ。俺たちの為にいじめられてくれとか言ってるようなもんだぞ。

 心底呆れながら俺は今日も一日を終える。


 そして朝日が目に差し込み、眩しさで瞼を上げると縄で身体を縛られ、昨日居た訓練場に転がっていた。

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