第55話


「綺麗だねエレーナ」

「お父様」


レイヴンにつけてもらったベールを、今度はダダイの手によって降ろされる。久しぶりに会ったダダイは記憶の中より白髪が増えた気がする。しかし昔から知っている優しい目をしていた。母であるエリアナが亡くなってから、同じ屋敷にいるのに会えない日々が続いた父。右往左往あったが今は弟のサライとソファ家の領地と医療に貢献しているようだ。その事実にエレーナは嬉しく思っている。母のように亡くなる人が減るはずだから。


「色々すまなかったね。」



目をパチパチと瞬かせると、困ったようなダダイの顔が目の前にあった。その顔を見てネアとイーダの事だと理解する。今日はこの2人の参加は無い。勿論、最初から式の参加はご遠慮願ってはいたのだが、そうでなくても今あの2人は公に外に出れる状態では無い。イーダはもう二度と牢屋からでられないとバルサルト殿下が仰っていた。そして、前回の事件が公になった結果、首謀者であったネアも、罪を償う必要が出てきたと言う。その罪状が決定する間屋敷で謹慎する事になっている。その事にダダイは勿論少なからずエレーナも複雑な気持ちでいるのだ。


エレーナは首を横に振った。少なくとも彼女らの存在は、自分の人生において過去の人間なのだ。後は法律によって裁かれ罪を償って貰えるならそれで良いと思っている。自分はすでにクレメンス家の女主人であり、未来はランスロットのためにあるのだ。



「お父様、今までありがとうございました。どうかお体に気をつけて」

「ああ、エレーナ。君もね。いつでも戻って来なさい」


ベール越しに2人で微笑みあう。

ダダイは今までで1番優しく顔でエレーナを見つめた。


「..結婚、おめでとう。エレーナ・リズ・クレメンス」



最後の挨拶。そして最初の挨拶をする。

待機していた従者がベルを鳴らした。そのあとゆっくりと目の前の扉が開く。

招待客と最愛の夫ランスロットが待っているであろう協会の扉だ。


エレーナは期待と不安と、そして幸福でその扉から溢れ出た光を優しい瞳で見つめるのだった。

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