第54話
もう一度エレーナはブーケをみた。大切に意味を教えてくれたレイヴンの気持ちが嬉しくて、このブーケがより一層美しい物に見えた。
「レイヴン!ありがとう!最高のブーケだわ」
エレーナのお礼に満足そうにレイヴンは頷いた。それを見ていたティナは「そうだ!」と声を上げる。カラードレス用のブーケをレイヴンから受け取りそれを棚に置くと、今度はウェディングベールを持ってくる。キョトンとする二人にティナはニコニコとベールをレイヴンに渡した。
「レイヴン。最後の仕上げです!エレーナ様にベールをつけてあげてください」
「え!?」
「まぁ!それはいいわね」
突然の申し出に戸惑うレイヴン。それをよそに女性陣はにこにこと笑っている。ベールどころか女性の服にすら触れたことが無い男だ。ティナの手で強引に手渡されたベールを持ち、レイヴンはおっかなびっくり戸惑いながらもおずおずとエレーナに近づいた。
「顔にかけるのはダダイ様の役割ですから、レイヴンは、ここのティアラの所に.....」
「ま、まって。もう少しゆっくり」
ティナに促されて小刻みに震える手でレイヴンがベールをエレーナの髪につけた。きめ細やかな刺繍があしらわれたそれは、エレーナの黒い髪を優しい色に変える。太陽に照らされた白の中エレーナの笑顔が一層映えた気がした。
「....とても、あの....お綺麗です」
「ありがとうレイヴン」
心からの最大限の賛辞を送る。エレーナは花を咲かせるように微笑んだ。
幸せの一日。
誰からも祝福を受けて笑顔で溢れるだろう。
そしてそれと同時に、エレーナはきっと様々な困難に立ち向かわなければならなくなる。レイヴンは気づかれないように眉を寄せた。
夫となるランスロットは先日怪我を負い、毒をその身に受け昏睡状態に陥った。一命は取り留め目を覚ましたが、その身は第2騎士団師団長の任を解かれるほど衰弱してしまった。きっと、このシフォニア国を守り導いてくれる存在になり得たのに。
その事についてランスロット本人はそれほど気にをしていない様子だった。だが周りの人間はそうは思わない。自分達が想像もしないような非難をの言葉を浴びせるのだ。人間とはそういうものだ。そして、その事態にきっとこの女性は気づかないふりをしながら傷つくのだ。時折自分すらも責めて。
「エレーナ様」
「なに?レイヴン」
もうすぐ式が始まる。
ランスロット達は誓うべき神のいる空間でエレーナを待っているだろう。
前に進むエレーナの横でレイヴンは腕を出した。それを自然な動作でエレーナが添える。お互いようやく板についてやりとりだった。
「.....なにがあっても、俺が近くにいます。これからもずっと。....ランスロット家の庭師として」
だからどうか。
悲しくどうしようもない時は俺のそばにきて。
口下手だけれど、貴女が元気になるように、貴女の好きな花を絶やさず咲き誇らせておくから。
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