第51話
麻痺の残った体は日常生活に支障はない程度には回復するという。ただ、騎士団師団長としては大いに支障をきたした。当たり前だ。これでは模範となって任務につくことは愚か、機密裏の任務では足手まといになるだろう。そのため来月には師団長の任務から外される事になっている。
その報告を受けた時は自分よりエレーナの方が狼狽えた。
「もう、だいぶ調子が良いのだけどな」
「いーや、お前。一ヶ月以上意識が戻らなかったんだぞ!?さらに先週まで車椅子生活だった奴がそんなにすぐに回復したら溜まったもんじゃねーわ」
自分の手を開いたり閉じだりを繰り返す姿に、キースベルトは寧ろ脱力するしかなかった。
「城内を歩き回るくらい構わないだろう。運動にもなるし、城の中をもう少し覚えないと仕事にならない」
「....たしかにそうですけど。それを今やりますか?」
今度はメニエルが脱力をし呟いた。騎士団を退団後、ランスロットは城内での任務を言い渡された。
【騎士団総括指揮官】。シフォン殿下が皇太子として本格的な責務を行うとため騎士団総括を降壇する記念として新たに作られた役職だ。主に騎士団と官僚や王族との橋渡しである。そしてもう一つは、今後より一層交流を持つ事になるナカルタ国との仲介にもひと役買う事となっている。人との関わりを極端に嫌うランスロットにとっては極力関わりたくない仕事の一つだが。
マントの下に下げていた時計を掴むとゆっくりとそれに目を向ける。1人で出歩きを開始してだいぶ時間が経っている事にランスロットは目を見張る。なるほど、これならこの2人が自分を探しに来たのに頷ける。体調が戻った事はわかるが、体力や筋力は一ヶ月の臥床の影響か大きい。ランスロットはチッと舌打ちをした。その様子を見てキースベルトが首を横に振る。彼の感情は同職であれば理解が容易いのだ。
「....あまり無茶するとエレに怒られるぞ」
「怒られるのは良い。怒った顔も可愛い」
「ああそう」
「....悲しそうにされるのが堪えるな」
「.....」
ランスロット自身、師団長という肩書きに未練は無い。それより新しい役職を賜った時のシフォン殿下が言う「これからも馬車馬のように働け」と言う言葉から屋敷に引きこもってもいいのでは?と思っていたりするのだ。
だが知っている。ランスロットの気持ちを理解しながらも、それでも彼女が自分のせいだと己を責めている事を。その事をひたむきに隠して自分に微笑んでいる事も。
ふらつくたびに少しだけ瞳を揺らしてしまう所も。
「心配してくれるのが嬉しくて、わざとふらつき過ぎた」
「お前最低だな」
ふむと思案する姿を見せるが、もう冗談なのか本気なのか判断が出来ない2人である。しかし、ふっと息を吐いた後ランスロットは素直な気持ちを吐露した。それがわかるのは雰囲気が変わったからだろう。
「せめて、結婚式までにはエスコートできるようになりたいのだが」
ランスロットの本音が静かに廊下に響いた。
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