第37話



「とてもステキなドレスでしたね」

「ええ。これなら旦那様が感動で固まる姿を拝見出来そうです。」



リメイクされたウェディングドレスの試着を終えて、エレーナとテイラーはほっと胸を撫で下ろしていた。

仕立て屋の主は、持ち込まれたドレスをとても気に入ってくれた。どうやらこのドレスも、この仕立て屋が作った物だったようで、綺麗に保存してくれたことが嬉しかったようだ。そしてこのドレスのリメイクも快く引き受けてくれて、本日誰もが満足するドレスが出来上がったのだった。



「このドレスを着るのがとても楽しみです」「ふふ。左様でございますか」



2人はゆっくりと近くの馬繋場ばけいじょうへ停めた馬車のもとまで歩いていく。

エレーナはそっと周りを見渡す。いまはお昼時で人々は大衆食堂や屋台の匂いに釣られているようだ。屋台の主も稼ぎ時だとばかりに大声を張り上げて売り込みをしている。行き交う人々は活気があって、エレーナはこの王都の市井の雰囲気が大好きだった。



「ブロッカでも買っていかれますか?」

「まぁテイラーったら!私がいつもブロッカを食べていると思ったら大間違いですよ!」



既にエレーナの好物になったブロッカ。最近は甘い味のフレバーのものにも挑戦してさらに虜になっていたのだ。

クスクスと笑いながら口を尖らせるエレーナにテイラーもクスクスと笑いながら「すみません」と謝るのだ。




「でも、良かったです。」

「え?」

「エレーナ様とランスロット様とご結婚が何事もなく迎えられそうで」



テイラーは目を細めて空を仰いだ。懐かしむようなその姿は未来への期待を孕んでみえた。


「エレーナ様が屋敷の前に佇んでいたあの日が、随分昔のように思います」



テイラーの言葉にエレーナは目を瞬かせる。クレメンス家の屋敷の門を叩いた時出迎えてくれたのはテイラーだった。無表情ではあったが名家の執事として洗練されているのは一目でわかった。優しく話しかけてくれたことも覚えている。テイラーの仕事はランスロットの補助だ。ティナ達に比べてエレーナと関わる事は少ない。それでも何かあれば助言をして気を揉んでくれていたのを知っている。



「あの時は正直、めんどくさそうな候補者だと思いました」

「!?」

「クレメンス家の婚約者候補として招かれる地位の出であるにも関わらず質素な服、痩せ細った体で、何かあるのだろうと私も旦那様も思っておりました」

「....そうですよね」



今明かされる事実だ。でもたしかに、あの時の自分を想像すると困った客人であったことに間違いはない。エレーナはクラリと目眩を感じた。良くあの時ランスロットが自分を屋敷に留めてくれたと感謝しかない。テイラーはエレーナの姿を見て再びクスクスと笑った。



「ですが、私はこうも思っておりました。"このお方はクレメンス家に、ランスロット様に新しい風を運んでくれるお方だ"と」



2人の間にサァっと風が通り過ぎる。テイラーはエレーナへと視線を合わせた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る