第76話



「これ?」

「どれです?」



ひょこりとランスロットの両脇からロイとメニエルがエレーナを見る。その視線に狼狽えるエレーナだったが、ランスロットの異様さに体が動かない。

そしてランスロットの視線の意味を理解した2人は一瞬瞳を見開いたあと「まずい」と言う表情を浮かべた。ロイに関しては片手で顔を覆ってしまう。



「あー....姫さん。もしかしてティール殿に何かされました?」

「何か?」



抽象的な表現で思い当たることは何もない。メニエルが「うーん」と唸る。言い方に迷っているようだ。



「エレーナ嬢、その首の痣はどうされましたか?」

「痣....」



首の痣という単語で記憶を巡らした。3人の視線が刺さるその場所は数日前ダダイが部屋に訪れた時に組み敷かれて、その時に痛みが......



「───ッ!!」



そこまで考えてエレーナは顔を赤くしてシフォンに付けられたキスマークを手で隠した。その仕草から疑惑が確信に変わる。ランスロットに関しては彼の周りが氷点下になったかのように冷たくなる。




「あの男!没落だけでは生ぬるい!!」

「...........私がります」

「わーーーー!師団長ダメです!!」

「レイ!レイヴンも辞めなさい!!」




今にも外の馬車で待機しているシフォン達に襲い掛かりそうな勢いだ。レイヴンに関しては刀を鞘から抜いている。本気の2人を止めるロイ達は顔を真っ青にさせて叫んだ。




「エレーナ!!」

「はい!!」



突然ランスロットがエレーナへ向き直る。怒られるのか、捨てられるのか、そんな事をグルグルと考えていたエレーナはピクリと肩を揺らした。ランスロットは腰を屈めてエレーナの目線になる。



「触れられたのはそれだけか」



コクコクと頷くとランスロットは、腑に落ちないながら心底安堵したようにため息をつく。エレーナの頭を優しく撫でた。先程とは打って変わり優しい仕草にもう怒ってないのかとエレーナは胸を撫で下ろす。

刹那。





「話はあとだ。なによりもすぐに、一刻も早くクレメンス家に戻り体を隈なく洗うといい。すぐにだ」

「...............はい」





有無を言わさない雰囲気に圧倒されてエレーナは頷くほかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る