第65話


「そして、こちらが今回エレーナ殿が失踪した経緯です」



今度はロイが一枚の書類を2人に差し出す。そこにはクレメンス家の屋敷にソフィア家の従者が訪れてエレーナを連れ出したという経緯とともに、レイヴンやティナなどその時の経緯を知っている者たちのサインが書かれている。


「そのサインは我が屋敷の従者の者だ。彼らはクレメンス家に忠実であるとともにエレーナにも忠実である事は私が保証します。」



ランスロットは信頼を示すように胸に手を当てて騎士の礼を取る。ダダイは頷いてネアの方へ顔を向けた。



「ネア...エレーナはどうした?」

「わたくしは知りませんわ」

「わたくしどもは、ティール領のシフォン・ネロ・リス・ティールのもとにいるのではと推察しております。その名をご存知ですか?サライ殿」



ネアがしらを切るのは想定内だったロイは追い打ちをかけるように今度はサライに話題を振った。



「え、...ええ。」

「その方に借金をされておりますね?」

「....」



サライがおし黙る。

これは肯定の意にしか見えない。ロイはさらに話を進める。



「そして貴方はこう打診されたはずです。『ソフィア家のお嬢さんと婚姻を結びたい』と」

「!!?」

「調べによりますとティール殿の真の目的はソフィア家の乗っ取りです。そのための駒として婚約を打診しています。それに気づいていたのか知りませんが多額の借金をしていた貴方はその打診を断れなかった。借金の話はできずそのままイーダ殿に話をした。ソフィア家には現在年頃の娘さんは1人です。そうですね、イーダ嬢」


イーダは顔を真っ赤にさせてふるふると震えだす。



「しかし、イーダ嬢は一回りも上の人間との婚姻を嫌がった。そこで貴方達はエレーナをクレメンス家から呼び戻しティール殿との婚姻を進めた。違いませんよね?ネア殿」



ロイは確信を持って言葉を締める。最終的に全員がネアの方へ視線を向けた。ネアは至極落ち着いた様子でにやりと妖艶に微笑む。それがランスロットには不快でたまらなかった。




「そこまで調べてあるならしらもきれないじゃない騎士殿」

「ネア....」


信じられないと言う顔をするダダイにネアは表情を無くして一瞥した。そこに何の感情も映らない。



「まぁまぁ楽しい結婚生活でしたわダダイ様。誰にも干渉されず好きな物を買い自由に過ごせましたもの。でももうこれで終わり。失礼しますわ。行くわよイーダ」

「待て」



礼もせず踵を返すと2人はドアの方へ向かう。ランスロットはギリっと奥歯を噛み締めた後ネアを呼び止める。



「エレーナはどこだ。」

「知りませんわ」

「ふざけるな!!」


ランスロットの叫びにひるむ事なくドアノブに手をかけたネアはゆるりと振り返る。




「本当に知りませんの。シフォン殿がこの屋敷から連れ出しましたの。屋敷外の事は知りません」

「くそっ!!」




「シフォン殿の領地に向かわれてはいかがですか?でも急いだ方がよろしいわ。あの方野心に忠実です。早く婚約できるならとイーダではなく結婚適齢期を過ぎたエレーナをご所望だったの。もう既成事実のために動いてるかもしれませんわよ」

「....っ!!」











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