第53話
「現段階で婚姻を結べる年齢の女性は1人。ソフィア家にはイーダ・ラド・ソフィア嬢がいます。」
ロイは以前夜会で出くわした令嬢の姿を思い出す。見目だけで言えば美しい女性だ。ソフィア家という家柄もあり中々申し分ない縁談になる。ただ、あのイーダと言う女性が20歳も年の離れた相手との政略結婚を良しとするかと言ったら甚だ疑問だ。つまり
「その縁談相手をイーダ嬢ではなく、姫さんに押し付けようと....?」
「その可能性が捨てきれない。」
ランスロットの返答にロイは絶句し眉をひそめた。
「確かに、姫さんと師団長の縁談は婚約者候補の建前から内密な物でした。社交場でも師団長の婚約者が見つかったと言うの噂は経ちましたがそれ以外の事は殆ど広がっていません。ソフィア家の娘の情報が今までなかった事も、師団長が公の場に連れて行く事はしなかった事も要因でしょう。口の軽い貴族階級の方々からも噂は出ない徹底ぶりだったのが仇になりましたね。」
「....チッ」
ランスロットは舌打ちをして思いを巡らす。こんな事なら早くに「婚約者候補」から「婚約者」として公言するべきだったと悔やんでしまう。ただエレーナの気持ちを優先した事には後悔はしていなかった。この結果は自分の護りの甘さだ。
「これは私の勝手な想定だ。メニエルの予言がどう転ぶかわからない上、情報が足りなすぎる。せめてエレーナの居場所を突き止めたい」
「経験上、彼女はすでにソフィア家には居ないでしょう。イーダと、その母ネアが一枚噛んでいるはずです。叔父のサライ、ダダイには秘密だと考えれば屋敷内に留まるのは思惑が露見する可能性を危惧される。別の場所に軟禁されて事の成り行きを待っていると考えるのが自然です」
「その理屈で間違い無いかと」
突然、ランスロットとロイの後ろで声がした。真剣に会話をしていて気づかなかったようだがいつからかメニエルが戻って来ていたのだ。メニエルはクイッと眼鏡を押し上げると気怠げな顔で足を2人の方へ進めた。
「予言をして疲れただろう椅子に腰掛けるか?」
「ありがたく座らせてもらいます」
近くにあった椅子に腰掛けるとメニエルは持っていた紙をロイに預けた。
「これは?」
「予言結果です」
メニエルの返答に2人は紙に目を通す。そこにはグチャグチャと何を示しているかわからない文字や図が書き込んであった。メニエルは自分用のメモ帳に時々このような文字を書く。彼の故郷の文字で気を抜いて早く書くのに慣れ親しんだこちらが便利だと以前話していたことを思い出した。
ため息をついた彼は口を開く。
「副団長のおっしゃる通り、エレーナ様は既にご実家にはいらっしゃいません。いるのは以前お話しした高い所です。どうやらどこかの塔の上のようでした。そこで彼女は軟禁されています」
「場所は?」
ランスロットが食い入るように詰め寄った。
「王都からそう離れた場所ではありません。ここから西の方角。それしかわかりませんでした。」
「....西」
「....調査書類の情報では、ティール領はここより西の方角でしたね」
自分が想定した最悪の状況になっている。ランスロットは確信に近い何かを感じていた。
「後はソフィア家とシフォンがどう動くかだ」
「姫さんの名で婚約発表をされたら奪還も難しくなります」
ロイの言葉にランスロットは「はっ」と鼻で笑う。仮面の奥でギラリと目を光らせた。
「こっちは"変人軍人"と呼ばれる男だぞ。変人の名に恥じない奇行を起こしてやる」
「あなたが言うと恐ろしいです」
しかし、その言葉が冗談でもない事をロイもメニエルもわかっているので苦笑いで収めた。ヒシヒシと感じていたがこの男相当のキテいる。自分が居ない所に裏をかかれたような案件という事もあるだろうが、何より会えると思っていた笑顔に会えなかったのが原因だろう。
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