第47話


要件を伝えた後エレーナの部屋を出たランスロットはツカツカと廊下を無言で歩いていた。

仮面をつけているため、その表情は読み取れない。しかし"背中は語る"とは良く言ったもので、後ろに控えていたテイラーは主であるランスロットの考えている事が手に取るようにわかるのだった。....それはもう。




コツリ。

エレーナの部屋から随分離れた所でランスロットの足が止まる。



「テイラー」

「はい」



長い沈黙の後、いつもより格段に低い声色で名前を呼ばれて、テイラーはスッと姿勢を正す。




「.......見ていたよな」

「もちろんでございます」



実はエレーナの部屋に訪れた際テイラーも居たのだ。ランスロットの背後で2人の会話を邪魔しないように控えていた。そのため勿論、先程のエレーナの挙動不審も確認している。




「あれは.....なんだったんだ」



扉を開けて目があった瞬間、エレーナがどこかホッとしたような嬉しそうな表情をしたのをランスロットは見逃さなかった。自分が見せた幻かと思ったがその後の反応に思わず意識が飛びかけた。



「危うく寝室に連れ込む所だった」


連れ込んで、その反応の意味を問いただしてベットに縫い止めてしまいそうだった。だが、そのせいで怖がらせる可能性もある事も理解している。奥手な上、恩を感じているであろう彼女にいまアクションを掛けた所で良い方向に行かない場合も大いにあった。その考えが脳裏をよぎった事で踏みとどまれた気がしないでもない。


ランスロットは先程のエレーナの反応を脳内で再生する。ピクリと揺れた肩に今まで聞いたことがない艶やかな声。思わず両手で顔を覆う。




「くっ.....可愛い」

「心の声がダダ漏れですね」

「せめて口に出さないとどうにかなりそうだ」

「それはなんとなく...心中お察ししますが」



無表情ながらに冷めた目で主を見て痛烈な言葉を投げかけるテイラー。再び歩き出すランスロットに、テイラーは再び言葉を投げかける。


「これからいかがなさいますか」



これから、というのはエレーナの処遇の事であるとランスロットは理解できた。




「自惚れてもいいだろうか」

「少なくとも、恩人枠から異性として意識されたようにお見受けしました」


テイラーの的確な指摘は、ランスロットの意思を固くさせる。


「自惚れてもいいなら、この屋敷に留めておきたい。婚約者として公に発表して彼女の立ち位置を確立させてやりたい。」



なにより、エレーナに自分の気持ちを伝えてどろどろに甘やかしてやりたい。



「そのためにはまずソフィア家をどうにかせねばなるまい」




現段階でも金をせびってくる卑しさだ。婚約し結婚したとなると今以上の要求をしてくるだろう。金で黙っていてくれるなら幾らでも渡してやるとランスロットは思っている。しかし、大事なのは彼女の気持ちだ。その事を知ったら彼女はきっとこの屋敷から出て行こうとするだろう。いま芽生えてきたランスロットに対する情をいっさい切り捨てて。

それは困る。




「近いうちにソフィア家に行く。それまで彼女を頼む」

「承りました」



ランスロットは決意を固めるのだった。


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