第38話
「時間を作る」と言った王都へのお出かけの日程は、思いのほか早く訪れた。
勿論、ランスロットの仕事が少なかった訳ではない。彼の技量と騎士団の采配によるものだった。才能もあるが、基本的に彼は仕事が好きなのである。そこに"エレーナとのお出かけ"目標が出来たことでさらにやる気が向上した。
「準備は出来たか?」
「お待たせ致しました」
エントランスで待っていたランスロットの元にエレーナはいそいそと近づいていく。
どの時代でも「女の支度は長い」と言われるが、今回ばかりはエレーナとその表現を後押ししてしまった。
「申し訳ありません。お忙しいところを」
「構わん。大方テディやティナがお前を放さなかったんだろう」
的を得た回答にエレーナは苦笑いをした。いつも質素な服を好むエレーナだが、今日はランスロットとお出かけということで侍女達が張り切るに張り切ったのだった。そのおかげで今日の出で立ちは普段なら着ないサーモンピンク色のドレスだ。胸元に銀色の刺繍が丁寧に縫われている。その刺繍を引き立てつつ派手すぎない分量でスパンコールが散りばめられていてエレーナが動くたびにキラキラと輝いた。髪型は黒髪を緩やかに巻いてあるハーフアップとなっていて、髪留めも銀色の花を中心にカラフルに色の宝石が付いていた。
滅多に見れないエレーナの姿にランスロットは内心心が乱されたような衝撃を受けた。これが自分と出かけるためだと思うとたまらない。
「その....とても....可憐だ」
なけなしの力を振り絞り褒め言葉を紡ぐ。エレーナの後ろで使用人達が思い思いの顔をしているのが気になった。
仮面越しにそちらを確認すると、テイラーが胸元で小さくバッテンの仕草をしている。ティナが大きく手を上に持ち上げる仕草をしていてテディに関しては首を横に振る始末。....."今のは不十分、もっと褒めろ"と言う意味を示している気がする。
「え...あーーーーー」
夋巡
無理だった。
勿論自分の語彙力の無さも自覚している。しかし、それ以上に言葉を失ったのだ。何故なら、耳まで真っ赤な顔をして俯くエレーナ・ラド・ソファの姿が目の前にあったから。
「ぁ...ありがとう...ございます」
小さく小さく、やっと聞き取れるような声色で紡がれたお礼の言葉にランスロットは胸がぐっと詰まったのを感じた。後ろの3人に彼女が見えてなくて良かった。こんな姿ほかに見せるなんてごめんだ。
「さて...行こうか」
いつもなら逃げるように顔を手で掴んでいる所だが、それをグッと堪えて代わりに右手を差し出す。未だに顔が赤い彼女だがその意図を正確に読み取って静かに手を乗せる。それに気分を良くしてランスロットは玄関の方へ向かった。
「いってくる」
「いって参ります」
「「「いってらっしゃいませ」」」
玄関で見送る使用人達に声をかけて2人は停めてあった馬車に乗った。
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