第37話



「テイラー」

「ティナ」

「お部屋にお戻りになられ無いのでお迎えに参りました」

「....それはすまない」



同じタイミングでお辞儀をした執事達に、今まで見られていた事に気づいたエレーナは顔を赤くする。ランスロットは特に気にしていない様子だったが、時間を大幅に過ぎていた事には戸惑っているようだった。




「....仕事があるのを忘れていた」

「あなたは働きすぎですので良い傾向だと思いますよ。」



テイラーの言葉にランスロットは唸るような声を出した。それは良いことなのだろうか。側から見れば女にうつつを抜かし仕事を疎かにしたた愚かな男では無いのだろうか。いやしかし、テイラーが言うのだから悪い事では無いのだろうか。もしダメな部分まで落ちたらきっとこの執事は叱ってくれるだろうから。

そこまで考えを及ばせ納得すると、ランスロットは聞きたかった事を口にする。




「それより、王都へ買い物とはどういった要件だ」

「ロイ様が騎士団へお連れした時以来、エレーナ様は外出をされていませんので、もしよろしければ王都観光でもと思った次第です」




ランスロットは考える様に天を仰ぐと、「エレーナ」とその名を持つ少女に声を掛けて顔を向けた。するりと自然に彼女の手を握るとエスコートしながら屋敷内に入るため足を進めた。



「近いうちに時間を作る」

「いえ!ランスロット様!薬草のお礼はほんとに!本当に結構です!」



話がどんどん進んで言ってしまう事に慌てたエレーナは再度お礼を遠慮した。むしろお礼をするのは薬草を頂いた自分の方だ。しかしランスロットはエレーナの拒絶を制するように首を左右に振ると人差し指の背でエレーナの頬を撫でた。




「俺がお前と行くと決めたから行く」

「なんで...」

「ただの口実だ。エレーナの時間を俺が独占するための」



それだけ言うとランスロットはテイラーを連れて執務室の方へ向かっていく。

その様子を頬に手を置いたエレーナが見送った。


一拍


「っ....ランスロット様!」



曲がり角によって姿が見えなくなったランスロットにエレーナはなけなしの叫び声をあげる。その顔は真っ赤でティナは思わず微笑んだ。そしてきっとこの壁の向こうでにやにやしながら歩いているであろう仮面で隠された主の顔をを想像して。

ティナを始め、"ヘタレランスロット応援隊"の面々は気付いている。

ロイに連れられて騎士団へ向かったあの日を境にランスロットのエレーナへのスキンシップが増えて来たこと。笑う回数が増えた事。そして、「お前」呼びだったが彼女の名前を今ではまるで宝物のように呼ぶ事。




(やっている事は好きな子をいじめて楽しむガキ大将と同じだけれど)



そこに関しては困った部分なのだが、それでも今は良いとも思っている。

タイミングを見計らっているのか名言は避けつつもあからさまに好意を伝えているランスロットに、少なくともエレーナはそれに嫌悪を抱いてはいないように見受けられるからだ。恋を自覚していないエレーナに対してここは慎重に見定めないとならない。あらゆる死線をこなして来た騎士団長ならば駆け引きはお手の物であろう。....女性の機微について理解できないにしても真面目で誠実な男はきっといい方向へ導いてくれるはずだ。

そこまで考えたティナはもう一度エレーナを見やる。

いまだ顔を赤くした彼女がこの屋敷に来て、この屋敷は随分明るくなった。ランスロットだけではなく使用人達もまた然りだ。

思惑もありつつこの屋敷に留まってくれたことにに感謝して、ティナはエレーナを屋敷の中へと誘導した。



2人が王都は向かわれる時にお召しになる服装の剪定をたのしみにしながら。



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