未来のイス
今年は西暦3000年ー某氏は街を歩いていた。
時が経ってもなくならないものは沢山ある。
例えばPC。例えば本屋。
科学が進歩してもやはり代用できないものは多い。西暦2000年時代にあったもので、なくなっているものは半分ほどだろう。
そして、骨董屋とは、その半分のちょうど中間にあったようだった。
骨董屋は存在している。しかし、その未来が決して明るいわけではない。潰れる寸前といったところであろうか。
某氏はふと立ち止まった。とおりにぽつんと立つ骨董屋に目をつけたのだ。
なんともない店。ただ、某氏には全く理解できない品目が並べてあった、
「これはなんだね?」
近くのロボットに聴くと、
『イスです』
と答えた。店の奥からのそのそと店長が出てくる。
「珍しい品目でしょう…イスとは、古代のちょっとした道具らしく…」
「どうやって使うんだね?」
「これが使われていたのは2000年代までなのですがね…その資料には『座る』だとか、『腰掛ける』だとかかいてあるのですが、何しろその言葉の意味が…」
「座る?動作の一つだろうか?」
「どうもそうらしいんですがね…休息のためにする動作のようで…」
なにしろ1000年後だ。動作は出来る限り洗練され、効率化された。
その結果、なくなったのが『座る』という作業だ。仕事なら立ってやればいい。疲れたら寝転べばいい。いつでもどこでも寝られるようなロボット設備が完備されているのだから、わざわざ中途半端な『座る』なんていう動作をする必要がない。よって、某氏の時代の人々は、『座る』という言葉の意味をしらなかった。
「どうも気になりますね…」
店長と話していると、通りかかった何人かが集まってきた。
正体不明の物体
調べても何もわからなく、『イス』は人々の興味をかき立てた。
「木製だから、あまり激しいことには使わないようだな」
「大きくもなく、小さくもない…一体なんなのだ?」
皆が頭を悩ませている時、ひとりの女が言った。
「もしかしたら、この上に寝転んだのでは?」
「でも小さすぎる。」
「一つで使うというのが間違っているのよ。二つ並べて使って。『スワル』というのは『寝転ぶ』の昔の言い回しなんじゃい?」
皆が納得し、この平凡な世界に起きた小さな事件に区切りをつけた。
文明が生まれ、文明が消えた未来では、本当の答えを知るものは誰もいない。
奇妙なイス 翡翠 @7hisui7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。奇妙なイスの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます