神とはいえど楽じゃない
高知尾光
プロローグ
「ハッハッハーーーー! 今日の仕事は最高だったぜっ!」
「そうっすね、親分♪」
「がっはっははは! あの商人の野郎、しこたま溜め込んでいやがったからなぁ!」
夜の夜中の闇の中。
街の明かりも届かない山奥で、酒盛りと称して盛り上がっている数十人の者達が居る。
連中は揃いも揃って粗末な革鎧やボロのような布を体に巻きつけており、一言でいえば不衛生極まりない格好をしていた。
あぁ、彼等はいったい、何ヶ月風呂に入っていないんだろうか?
何の対処もなく近づいたら、匂いで鼻が曲がるかもしれない。
こういう時に、消臭剤という物が必要だと切に思うのだが……この世界でその事を理解してくれるのは極少数という悲しい事実。
そんなことは今現在、どうでも良いんじゃないかって?
そうだな。確かにどうでも良いことだ。
問題は彼等が『盗賊』と呼ばれる犯罪者集団で、今日も一仕事を終えて金銀財宝に食料も含めて回収してきた後だということである。
彼等の餌食となった善良……かどうかは解らないが、少なくとも何処ぞの商人は被害にあってる訳だし、その商人の家を警護していた者達や周辺の人々に被害が出たのは確実である。つまり、
『人の道を踏み外し、己が欲望を満たさんとする者。人それを悪と言う』
なんて、小洒落た台詞も出てきそうな相手だということだ。
彼等は自分達で作り上げた砦の中で、思い思いに飲んで食べて歓談してと楽しんでいる。
現代風に言えば一仕事の後の一杯といったところか。
まぁ、連中の一仕事には命のやり取りが入っていたので、現代日本よりも遥かに殺伐としていたのだろうが。
とは言え、明らかな悪党である連中にも良い所は有る。
非道な行いで懐を豊かにしている彼等盗賊諸氏は、間接的にだが人に幸せを与えてくれる存在でも有るのだ。
誰にだって? それは勿論、『俺』に決まっているじゃないか。
だって、盗賊に盗まれた物は見つけた奴の物だからね。
――え? そんな馬鹿なことはないだろうって?
細かい事は気にしなくて良いんだよ。
「よし。行くか」
発した声がマスクの中で響くように聞こえ、俺は立っている木の上から力強く飛び上がった。
そして背面に施された術式を起動し、風を操り加速することで、一直線に盗賊たちの宴会場へと飛び込んでいく。
風を切るこの感覚、何度やっても非常に気持ちが良い!
と、着地点に盗賊一号。あー、南無南無である。
「―――ヴォルターキックッ!!」
「グベベァ!?」
不幸なことに着地点に入り込んでしまった盗賊へ蹴りを見舞い、俺はそのまま反動を利用して宙返りを決めてスーパーヒーロー着地を決めた。片膝を立てて着地する、アレだよ。
蹴りをマトモに食らった盗賊は……まぁ、十数m程ぶっ飛んだ後に森の木々を掻き分けながら転がっていったが、まぁ、なんだ、運が良ければ生きているだろう。
夜の闇の中から表れた俺に対して、盗賊たちはシンと静まり返り視線を向けてくる。
こんな視線を向けられるのも既に成れたものだ。着地の姿勢からゆっくりと立ち上がり、俺は連中見渡す様にしながら顔を向けた。
「盗賊団、猫の爪だな。名前の可愛い~響きとは裏腹に、街や村々を襲っては人々を襲い私腹を肥やす悪党どもめ。如何に権力の手から逃れようとも、俺は貴様らのよう悪党を逃しはしないっ!」
指を突きつけ盗賊たちに言い放った瞬間、俺は感動に打ち震えていた。
いや―――練習の甲斐が有ったなっ!
どもらずに確りと言い放つことが出来た。きっと盗賊連中も、俺の言葉に身を竦ませて―――
「……何者だ、てめぇ? 随分とけったいな格好をしやがって」
竦ませては居ないっと。
しかし、え? けったい? この格好のことか?
いやいや、そんな、まさか。
首を傾げ、けったいな格好をした奴とやらを探そうとする。
「お前だ! その、白い鎧? 服か? そんな格好を良くも恥ずかしげもなく……」
「……(ゴクリ)あぁ。普通の神経してたらまず着れねぇ」
「テメェ、いったい何処の変態だ?」
か、ん、なんだと!?
オイオイオイ。これは、俺なりに考えに考え抜いたデザインなんだぞ?
単純な鎧じゃ動きにくくて機動性が落ちるだろうから、なるべく軽量化と関節面での動きやすさを追求し、各部に蛇腹構造を組み込んだ傑作なのに?
薄く貼り合わせた合金製のスーツ。胴体部分は前と後ろも揃ってパーツがスライドするようにすることで本来の動きを阻害しないように作ってある。
尚且つパーツの隙間を極力減らし、関節部分には極薄の金属繊維を使って密閉することで剣や槍は勿論のこと、火などの非実体系の攻撃にも対応した優れ物なのにッ!?
「ふ、ふん。貴様等のような盗賊風情には、このアーマーの素晴らしさは理解出来んだろう。……いや、出来てたまるか!」
「あ? なんなんだ、その言いぐさは?」
「そんな、いつ風呂に入ったのかも解らないような、肥溜めの中を泳いだような匂いを撒き散らしている貴様らには、絶対に分からん筈だ!!」
「オマ! なんて酷いこと言いやがるんだッ!?」
いやいや、だって事実だろ。
勿論、本当のことなら何を言っても良いとは言わないが、少なくとも連中のような犯罪者に気を使う理由はない。俺? 俺は犯罪者じゃないよ。一応は。
「フン。もう一度言うぞ悪党ども。貴様らは鼻が曲がりそうな程に、酷く臭い」
「うるせぇっ! 俺達だって、好き好んでこんな格好してるんじゃねぇ!!」
「そうだ! 出来れば毎日風呂にだって入りてぇ!」
「ゆっくりと泡風呂にだって入りてぇ!」
「……いや、貴様等、自分のキャラ性と言うものを考えて口にしろよ。泡風呂が似合うような存在か? 背すじが凍るぞ」
「そ、存在!? て、てめぇ! もう許さねぇ!!」
ビシっと指をさして再度指摘をすると、盗賊の中の一人が目尻涙を溜めながら飛びかかってきた。
何ていうか、ゴメン。思いの外に繊細だったんだな。
その事実に驚きはするも、対処は確りとして置かなければならない。
盗賊の振り下ろしてきた剣を半身になって躱し、そのまま半歩だけ踏み込んで相手の身体に肘を叩き込む。
ズンっ! といった鈍い音と同時に、盗賊は
「グェッ!?」
と悲鳴を上げた。
優しい奴ならこの段階で終わりにするのだろうが、残念なことに俺は自分には優しいが悪党には厳しい。
「ヴォルターキャノンッ!」
密着させた肘に意識を向けると、その部分の術式が作動して圧縮した魔力が飛び出す。盗賊は『ドバンっ!!』といった爆音と同時に「ブボバっ!」と良く解らない言葉を吐いて吹き飛んでいった。
大きな魔法ほどの派手さはないが、結構地味にインパクトは有る攻撃だろ?
最初の一人目と同じように森の木々を突き抜けて吹き飛んでいく盗賊に、連中はあんぐりと口を開けていた。
「―――俺はヴォルター。天空戦士ヴォルターだ。良く覚えておけ。もっとも、お前達は直ぐにさっきの奴らと同じように成るんだがな」
言いながら腰を落とし力を溜める。
そして脚部の術式を起動すると、俺は狼狽えて居る連中へと駆け出したのだった。
「消えたっ!?」
「野郎!何処だ!」
「探せ!ぶっ殺してやる!!」
口汚く怒鳴りながら周囲を見渡す盗賊たちだが、反応が鈍い。
此方は既に、貴様らの後ろへと移動を終えている。
「終わりだ」
背後からの声を聞いた連中が慌てて振り返るが、ソレも含めて全ての動作が遅すぎる。
俺が腕を交差させて新たな術式を起動することで、既に此方の行動は終了しているからだ。
瞬間、目の前に魔法陣が浮かび上がって周囲の空気が渦を巻き始めた。
「ヴォルターサイクロン!」
声と同時に術が発動し、目の前には巨大な竜巻が渦を巻く。
そして
「ぎゃああああああああああ!!!」
「な、なんだこりゃーーーー!!」
「ひぃやああああああ!!!」
盗賊の皆様全員が、お空に向かって飛んでいった。
安心しろ。運が良ければ生きているだろう。もっとも、逆に運が悪い場合は知ったことではない。
※
「ひい、ふう、みい、と……ふへへ」
盗賊連中がアジトに溜め込んでいた金銀財宝その他諸々を数えながら、思わず頬が緩くなる。
地球で培った常識が通じない世界だが、一芸で食うには困らないのは素晴らしいことだ。もっとも、誰にでも出来る一芸なんかじゃないんだが。
だって、盗賊の御宝を拝借する訳だからな。そうそう簡単に出来ることなら、盗賊の連中だって違う職業を選んでいただろうさ。
だからアレだぞ? 仮に何処かで盗賊団を眼にしても何とかしようなんて考えるなよ? 俺の真似をしていいのは、そういった自信が有る奴だけにしてくれよな。
かく言う俺も、こういった事をしようと思うまではソレはもう長い道のりが有ったんだから。
まぁ、だいたい、2年位な。
あ、因みに天空戦士ヴォルターって名乗ったけど、当然だが本名じゃないぞ。
本当の名前はカナデ・ムラクモ。
御年21歳に成ろうかという……傭兵? いや冒険者? まぁ、色々やってる男だ。
元々は太陽系の第三惑星地球にある日本出身の一般人だったのだが―――え、知ってる?
よくある話だからって? ……あぁ、そう。
じゃあ、もう少し違う話をするか。
今の俺は傭兵や冒険者、そして各街々で一時的な用心棒などをしながら日銭を稼ぎ、趣味の一環として天空戦士ヴォルターに変身を……
いやいや、待て待て。ちょっと待て。
嘘じゃない。本当の事を語っているんだ、俺は。
この世界に来てから、早二年。ひょんな事から地球とは違う世界に迷い込んでしまった俺は、コレまたひょんな事から普通とは違う能力を身に着けるに至った訳だ。
んで、色々と端折るが今に至ると。
―――ざっくりしすぎ?
いや、昔の話って、面白いもんでもないんだけどな……。
じゃあ語るが、アレはそう、俺が学校へと向かうために玄関の扉を開けたのが始まりだったんだ。
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