第453話 歩くスピード

 コロナ禍の前から家にいることの方が多い隠遁者のわたくし、今日母の買い出しにつきあって隣町まで行きました。

 しかし、荷物を車に置きに、店と駐車場を往復していて思ったこと。

 まず、店を出て駐車場に行く。

 荷物をもって、てってこてーと歩きながら、前方におじいさんが女の人とやりとりをしているのを見かけました。

 親子かな? って思って、だったら一緒に歩いていくだろう、と。

 思ったのでござりまするよ?

 店を出て右手側に駐車場はある。

 どうも御二方ともそちらへ行こうとしている、ように見えました。

 店を出て、大きな道を通って右手に駐車場はあります。

 わたくしはそこへ行きたい。

 で、おじいさんの様子を見ていると、つえをついていますから、とっ、とっ、という感じで歩いていくと思いました。

 女の人も一緒に調子を合わせて歩いていくもんだと思いましたが、思ったのと違い、女の人はすたすた歩いていきます。

 おじいさんは置いてけぼりだ。

 おかしいなあ。

 でも、わたくしも荷物がある。

 車に乗せて、また母のいる店内にもどらないといけないのに、おじいさんの後をついていったのではきっと遅くなる。

 思いましたね。

 このまま真っすぐつっきっていけば、てっとりばやく用はすむはずだ、と。

 で、足を速めてすっすっす。

 しかし、前にいたおじいさんは、シャカシャカシャカ! と大股でつえを大きく振りながら速足で歩いていく。

 わたくし、右へ曲がりたいのに、通せんぼされた。

 うーん? これは意外。


 そして、荷物を置いて店内に入ろうとしたとき、前方から小学生の男の子が歩いてきました。

 道路は広いし、まっすぐ歩いていけばぶつからない、大丈夫、とたかをくくっていたらその小学生、なんか戸惑ったように歩みを遅くした。

 あれっ? わたくし邪魔だった? 思いましたが道は一本道です。

 お互いに避けて通ればすっすっす、と行けるはずでした。

 しかし、その小学生、ゆるっと曲がります。

 そんなに避けないといけない距離じゃない! わたくしも反対方向へゆるっと避けたら、彼は素直に通り過ぎました。

 とにかく、こういうことが気にかかる日で。

 店内に戻ったら、母とすれ違うし。

 ぜったいにここにいるはずなのに、と思っていると見つからない。

 母はどうやら、買い物をすませて荷物を包んでいた模様。

 最近は自分で包むんですよね。

 だから、棚の陰になってわからなかった、ということです。

 彼女はオフ*ウスで荷物を売った。

 その売却完了の時刻を待って、待ち疲れて買い物したらしいです。

 それで、たぶん気づいてないのだろうと思って「番号札を見せて」と言いました。

 番号2**番。

 あった。

 天井近くに下がった電子掲示板に番号が。

 母は気づいてないから、呼びかけて。

「あら? 全然声が聴こえないと思ったの」

 というから、掲示板の存在を教えてあげました。

 今、コロナ禍で透明とはいえ、密閉シートをかぶせてあるから見えにくいんですけれども。

 番号はちゃんとありました。

 で、その値段が。

「**円」

 あまりの安さに、母、一瞬こちらを見、決意したように返事をしてサインをしました。

 お察し体質のわたくしは、「前、一万円の時計が10円で買いたたかれると知って、私、売るのやめたよ」と言った。

 母は、得心がいったように「でしょう!? あまりに安すぎる!」と言いました。

 まあ、そんなものなんです。

 今日は周りとしっくりこないことが多かったけれど、まあ、母とはなんだか気があって。

 二個で百円のチョコチップメロンパンを二人でわけて食べました。

 しかし……わたくし歩くの遅くなったのかな、と。

 大股でシャカシャカ歩くご老人と、歩みを緩めようとした小学生が忘れられなかったです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る