第433話 祖母、一階に移動

 祖母がいよいよ家の階段をのぼりきれなくなった。

 母が体を支え、一段一段、のぼってきたのだが、やはり最後の一段に往生。

 わたくしが岡目八目で、「降りる方が楽なら、一階に部屋を移動した方がいい」「今日にでも一階に移動した方がいい」と口をはさむが母は「ここまできたんだから、あとちょっとなの」といって、後ろから祖母を立たせようと必死だ。

 

 わたくしは直感した。

 これから祖母の足は回復しない。

 それどころが衰えるばかりだろう、と。

 ならば、今のうちに部屋と食事を一階にし、入浴したあとでまた階段をのぼって部屋にいかなければならないというような事態を避けるべきだ。

 わたくしは、なまじ頭が働くので(頭でっかち)母にあれこれ言い、危機意識を育てようとやっきになった。

 祖母が認知症の症状を見せているというのに、それを報告しても母は「介護施設でもっと重い症状の人がいるの。あの年で(九七歳)しっかりしてる方なの」と言って病院に相談もしなかった。

 今回もそうだ。

「歳が歳だし、しかたないことなの」

 そうでなく! この事態にどう対処すべきかが問題でしょ?

 お友達に相談したら、そういう態度はあとあと自分の首を絞めるだけだという。

 母は一生仕事がしたいと言っている、ワーカホリックなのか、何から逃げたいのだろう、と言ったら「仕事じゃなくて苦労したいのか」とツッコんでくれた。

 介助は楽な方がいい、家族全員の生活が犠牲になるのだから、介護疲れというのがあって、いくらかけがえのない存在であっても疲れれば疎ましく思えてき、そんな自分を嫌いになって悪循環だと教えてくれた。

 わたくしは、母の危機意識をあおるのをやめた。

「私が介護を手伝うから、階段には階段昇降機をつけよう。家をリフォームしよう。資金は私が就職して稼ぐ」

 と言って母にはしばらく休んでもらった。

 一時間休みたいというので、その間にネットで階段昇降機を検索。

 曲がり角も曲がれるものやレンタル式のものがあるらしい。

 いやいや、三年以上レンタルすると、買ったのと同じだけかかるとある。

 相みつもしなくては、といろいろ考えて一時間。

 母は眉根を寄せてソファで寝ている。

 言動が適当過ぎて深刻さが感じられない母だけど、ここで追いつめたらだめなんだと感じた。

 そして、その日のうちにわたくしはリビングにあったこたつを独りで一階に移動させ、母と祖母の寝室を入れ替えた。

 母は「明日、朝食がすんだら、おばあちゃんに下に降りてもらう」

 というから、自分でするのかと思っていたら、わたくしにやってほしいという。

 支えるのは自信がない、というとじゃあ帰ってきたら、と母は仕事に出かけた。

 まあ、階段を降りるのが苦でないならば、ついてて降りるくらいならばできるかもしれない。

 そう思って、祖母が日向ぼっこを終えるまで待って、正午、一階に移動した。


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