第428話 心配×2

 明日から職業訓練校へ行く。

 隠遁者を気取ってはいるが、やはり自分で稼いだお金で消費税など払いたい。

 ビジネスマナーなども、今回を逃したら一生身に着けられないだろう。

 というわけで、普通にラッシュの時間帯に電車を乗り継いでいくわけなのだが、コロナ渦とかもうしかたない。

 ワクチンは打ってもらったし、マスクをして混雑を乗り切ろう!

 そして二年後に就職できたら、恩の字です。


 ところでね、気になるのが愛猫のこと。

 今日は健康診断へ行ったのだけれど、わたくしは彼女にどこへ出かけるのかいつ頃帰るのか、ちゃんと話して部屋でお留守番をしてもらった。

 愛猫は賢くて、帰ってきたときご機嫌で迎えてくれた。

 けどね、そのあとで母が祖母の保険金をもらうための請求書を書くのにテーブルの上に乗られるのが邪魔だからと言って、閉じ込めてきてという。

 あらあ、半日も一人ぼっちでお留守番をしてたのに、また閉じ込めるの? 思ったけれど、事務処理をするには確かに書類の上に寝そべられるのは困りものだ。

 それで無言で部屋に閉じ込めたのがいけない。

 愛猫はどうして閉じ込められたのかがわからず、落ち込んでしまった。

 母と祖母の作業が終わって、解放したのだけれど、元気がない。

 で、餌を残す。

 ソファに沈みこむようにじいっとして、ほとんど動かない。

 心なしか耳が熱を持っている。

 これは心配! いつもなら、お風呂上がりのわたくしの足元にまとわりついてくるのに、それもない。

 いけない。

 ひょっとして寂しがらせた? 鼻と鼻をチョンとくっつけて見つめたら、一生懸命わたくしの顔をなめてくれる。

 でも、元気がまだない。

 わたくし、無理強いはしたくないのだけれど、顔を近づけて頭を一生懸命なでくりしてあげた。

 すると、彼女は元気を取り戻したのか、ソファを降りて餌を食べに行った。

 よ、よかった。


 けど、明日から心配なのはもう一人いる。

 祖母だ。

 朝早くに母と家を出るので、祖母は一人で日中過ごさねばならない。

 母は、

「洗濯物は部屋干し洗剤使ってるから、外に出さなくていいし、おばあちゃんはこたつで過ごしてて。転んだりしないように、それが一番怖いから」

 って言うんだけれどわたくしはソファからこたつに移動する姿を見ても、こたつから立ち上がる時にお尻をずって、台所の椅子までいってつかまり立っちをするところを見ても、不安でしかない。

「おばあちゃん、要介護なんじゃない? いや、要支援か」

 ってうっかり言ってしまったが母が笑ってごまかしてくれた。

 南向きの窓べで日向ぼっこをするのが日課のようだし、床にコードを散らかしてなければ転ぶことも減るはず……まあ、何もないところで転ぶ人だから全然安心はできないのだが。

 大丈夫かなあ。


 思う存分、勉強できそうにないよ!

 以前祖母は家にいるわたくしに「あたはなんね(あんたはなんだっていうの)」とさげすんでくれたが、今は訓練校へ行って就職めざします。

 でもね、わたくしが家にいたから、母は祖母を置いて仕事に行けたんだと思うな。

 変化はリスクも増えるから苦手だ。

 何とかならないものか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る