第420話 老い(祖母の足)

 祖母が風呂に入らなくなって久しい。

 いや、週に一、二回は入っているけれども、彼女が座ったソファは尿臭い。

 せっけんで洗ったらいいのに。

 今日はついに母が「今の時間帯なら、手伝えるから」風呂へ入れという。

 いや、母も週に二、三回しか入浴しない。

 なぜだか聞くと、節水とあとおっくうだからだそうだ。

 だったらシャワーで股くらい洗ったらいい、というと「そうね」と軽く返ってくるけれどもどうしてるんだろうか。


 ともあれ、祖母である。

 彼女は原因不明のわけのわからない傷を見せてくれたが、それは「むくみ」によるものと医師に診断された。

(そういえば、原因不明のケガや病気は老いであると言われたことがある)

 お正月からこちら、治療に塗り薬をつけ、足を高く上げて就寝するのが続いた。

 そのかいあって、傷は癒えてきたようだった。

 クリエイトで買ったインナー(靴下)と、圧着タイプのサポーターをつけている。

 これもね、母がせかせかとS~Mサイズを祖母に買わせておいてパッパと箱を開けてしまったら、なんと足が入らなくって買いなおし。

 うっかりしたわ、二そろいも買ってしまった、もう返品できないけれどもごねてみよう、と母が。

 ごねた結果、今回限りでM~Lサイズと一そろいだけ取り替えてもらったそうだ。

 嫌な客だと思うのだが、母は「いつものお得意様だから、私なんかはね」と充分満足している。

 おかしいな。

 そういうことは、お店の人が言うならともかくだ。


 今のところ、祖母の負担を減らすべく、干し物の出し入れと雨戸の開け閉めをわたくしがやることになっているのだが、彼女の足元はだんだんとおぼつかなくなってきている。

 牛歩といえば国会を思い出すが、同じなのである。

 まるでその場で足踏みしているように歩くから、いつ前へ進むのかとツッコんでしまいたくなる。


 老いとは滑稽だ。

 そして悲しい。

 わたくしもああなるのだな。






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