第409話 二回目のワンス・アポン・ア・タイム。

 場所カード(村、家、教会)

 登場人物カード(王、王子、継母、親、夫・妻、兄弟・姉妹、こども、物乞い)

 始まり(川)

 結末カード(そして彼らの死後、それはこどもたちに受け継がれたのです。)


 ***

 昔々、マロン川のほとりに大きな村がありました。

 子供たちは毎日のように川で釣りをしたり、沼でカエルをとったりして遊びました。

 大きな村には、貧しいものと裕福なものとが共存しており、王様はこの村に教会を建てました。

 ある日のことです。

 王様は立派な馬に乗ってこの村の通りを歩いていました。すると前からひとりの女性が現れてなにやら話しかけてきます。

 女性はこう言いました。

 ――わたしの家では靴を作っています。もしよろしければいらっしゃってくださいませんか?

 王様は王子がありましたから、さっそく王子様を彼女の家にやりました。

 王子様はたいそう美しい靴と、革をなめした立派な靴を買いました。

 ひとつは亡くなった母の墓前に供えるため、もうひとつは大切なセレモニーのときにはくために。

 そして王様とその女性は、教会で結婚式を挙げました。

 村は大きな名誉をいただき、みんな子供を教会で学ばせました。


 しかし、ある年のことです。

 王様がある日、ふとお城に帰る道すがら、こんなことをおつきのものたちに言われました。

 ――ああ、わたしは王子をあまやかして育てたが、この村のものはどうだ。すすんで子供たちに自立を促している。彼らの子供は市で働き、文字も読めれば計算もできる。それに比べてわたしの息子ときたら……。

 王様は王子様のことを思って涙ぐんでしまいました。

 そしてその日の夜、神様のお告げがあったのです。

 ――明日になったら、村人たちを集めて集会を行いなさい。そこで秀でた意見を言う子どもを王子の従者にするのです。

 王様はお告げの通りになさいました。

 次の日の朝早く、村人たちが教会に集められると、そこにはなんと昨夜のお告げにあった通りの子どもたちが集まっていたではありませんか!

  彼らはみな賢くて、よく働きました。

 しかし、王様は安心なさったためか、じきにお亡くなりになってしまいました。

 こうして王子様はご自分の国を治めることになりました。

 王子様はたいへん聡明でしたが、生まれ持った気品のために威張ることなどはなく、「よい王になるだろう!」と言われておりました。

 けれども、やがて王様は国民に対して重税をかけはじめ、贅沢をはじめました。国民の生活はしだいに苦しくなっていき、村にはいつしか暗い影が漂うようになりました。

 子供たちの姿は見られなくなり、少子社会になっていきます。

 年寄りたちが仕事から離れて物乞いになりました。

 教会は不幸な人々が集まる場になりました。

 とうとう我慢しきれなくなった村人たちは立ち上がり、町の人々とともに革命を起こしました。

 革命軍の先頭に立つのはもちろん優秀な若者たちです。彼らもまた神様のお告げを受けていたのでした。

 戦いが始まると、王宮は焼け落ち、王様は逃げまどいます。けれど兵士たちによって捕らえられてしまいました。

 王様は自分の王冠をとって、革命軍のリーダーに明け渡します。


「私はあなたに王位を譲りましょう。私のかわりに、この国を平和にしてください」

 リーダーはうなずきました。

「必ずやあなたの期待に応えてみせましょう」

 彼は王冠を頭に乗せて、みんなの先頭に立ちました。

 その後、先代の王様は物乞いとなって国中をさまよいましたが、誰も助けてはくれませんでした。

 いっそ、処刑された方がましだったかもしれませんが、村人は先々代の王様に恩がありましたから見てみぬふりをしたのです。

 そうして王様は不幸のうちに亡くなりました。

 たとえようのないほど悲惨なお姿でした。王様の魂は不滅の国に行ってしまうのか。

 こうして長いあいだ続いてきた悪習と腐敗に満ちた王政が崩れ去りました。民衆の手で新しい時代が拓かれたのです。


 親は子供に言い聞かせます。

 たとえ、親が死んでもおまえたち兄弟姉妹は生きていかねばならない。

 だから、力を合わせてよりよい未来を築き、己の道を見つけねばいけないよ。

 そしてそれは、あの貧しき王様でさえわからなかったことなのだ。



「……というお話です」

 語り終えた男は、少し照れたように笑った。

「なるほどね」

 俺はゆっくりと息をつく。

「それで?」

「えっ」

「俺を呼び出した理由は? 昔話だけじゃないんだろ」

「あー」

 そして俺は男が持ったカードを指さす。

「そのカードはあれだ、ワンス・アポン・ア・タイム。ホビーゲームだろ。俺を誘ってくれるつもりなら、早いとこそのおとぎ話を終えろよ」

「う、うん」

 男はごくりをのどを鳴らして、さわやかに笑んだ。

「結末はね……」


 そして彼らの死後、それはこどもたちに受け継がれたのです。


 END

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