第408話 初めてのワンス・アポン・タイム

 ワンス・アポン・タイムとは、物語創作カードゲームのOnce Upon a Timeの日本語版です。

 今回一人でできるかなあと、試しにやってみました。

 引いたカードは次の通り。


 人物カード:王女様、女王様、王子様、護衛、料理人。

 様子カード:美しい、勇ましい、愚かな。

 その他:割り込みカード(人物)、夜。

 結末カード:「この者たちは自らの意地悪と嘘の報いで一生目が見えないままになりました。」


 語り部がカードを一枚ずつ山場に出し、その言葉を使いながら物語を語っていきます。

 カードを使い切り、うまいこと結末を結べた人が勝ちです。

 それではいってみましょう。


 ***

 昔々、ある王国に、美しい王女様がいました。

 王女様は月の輝く夜に、王宮を抜け出してかくれんぼをしていました。

 すると森の奥から、不思議な歌声が聞こえてきます。

「……♪」

 その声に誘われるように、王女様は森の中へ入っていきます。そして大きな木の下にたどり着いた時、そこには一人の少年の姿がありました。

 黒い髪と瞳を持つ、とても綺麗な男の子です。

「やあ、きみは月光の城のお姫様だね」

「そ、そんなことないわ」

「嘘はいけないよ。悪いことがある」

 王女様はためらいがちに男の子を見ました。

「どうしてわかったの?」

「どうしてかな。ただ、ボクはきみほど美しい人は見たことがない。だからさ」

 そう言って微笑む姿はとても優しげでした。

 それから二人は仲良くなり、毎日のように会うようになりました。

 ある日のこと、いつも通り二人で遊んでいると、突然空に大きな影が現れました。それはまるで太陽のような光を放っています。

「あれは何?!」

「わからない……。でも悪いものではないようだ。様子をみよう」

 それは女神の箱舟でした。

 人々を幸せの空に運ぶ、特別な舟。

 けれど、試しのときに嘘をつくと、目をつぶされてしまいます。

 やがて舟が降りてきて、人々は乗り込んで行きます。

 ところが一人だけ乗らない人がいるのです。

 それは王女様でした。

「私は行かない!だって……」

「わかっているよ、きみは女王様に嘘をついて森へきた。心配にはおよばない。だってそれはこういうことだからさ」

 ぱっと身をひるがえして男の子は正体を見せました。

 それは勇ましい戦士である甲冑を着た、王子様。

 王子様の正体を知った王様はすぐに兵士を呼びつけ、王女様を連れて帰るように言いました。もちろん怒った兵士はすぐに捕まえにきます。その時です、兵士たちの手から逃れようと走りながら、彼女は言ったのです。

『お父様なんか嫌い!』と。

 それは嘘でした。

 王女様は試しのときに嘘をついてしまったのです。

 彼女は眼の光を失い、独り王国をさまよいました。

「ああ、なんてことをしてしまったのかしら!」

 嘆き悲しんだ彼女の前に、あの王子様が現れました。

 彼は優しく言うのです。

「もう大丈夫だよ。ボクと一緒に行こう」

 こうして二人の旅が始まりました。

 長い年月が流れても、彼らはずっと一緒にいました。

 しかしその間に王国は敵国の手にわたってしまい、二人は海の王国に助けを求めに行きました。そして、その国こそが妖精の国だったのです――

 妖精の女王は言います。

「私たちは人間を愛しています」と。

 そしてこうも続けたのです。

「私たちは弱いからこそ、助け合わねばなりません」と。

 妖精の女王の言葉を聞いて、王子様と王女様は心からの喜びを感じました。

 なぜなら彼らの国は目の前にあり、この瞬間にも戦いが行われているのだと知ったからなのでした。

 その昔々、海の上には大きな国がありました。

 しかし、度重なる異常気象に国としての体裁をとるのが難しくなり、その国は姿を消しました。

 そこに住んでいた人々は妖精の力を借りて生き延び、暮らしていましたが全ての人々に妖精の魔法が届くことはありませんでした。

 そこで一つの国が立ち上がり、平和な日々を取り戻していきました。それが今の王国の始まりと言われています。

 そして今なお続く戦争は、妖精たちの間で今も語り継がれている物語の一つだったのでした。

 さて、どうして人々が生き延びたり滅んだりしたのか……それは、人間は嘘をつくからです。

 どんなに願っても願いきれないくらい強い気持ちを持っていても、言葉に出せば簡単に壊れてしまうもの。だからこそ人はお互いの心を伝え合い、支え合うことで生きてきたのだと思います。

 これは私が見聞きしてきたことをまとめたものです。

 あなたにとって何か役に立つ情報があれば幸いです。……

「王女様の国はどうして滅びてしまったの?」

 それはね、また別のお話になるのですよ。

 ……では、そろそろ時間ですね。

 どうかあなたの未来に幸多かれと祈っています。

 それではご機嫌よう。

「……」

「どうした、急に黙ったりして」

「いや、なんでもない」

「そうか。じゃあ、ローストビーフとソーセージをもう一つ……」

 王女様の護衛の一人は、厨房でつまみぐいをしていました。

 そして、他愛のないおしゃべりをしては出ていきました。

 そのとき、王様が王女様を探して、女王様にお尋ねになりました。

 女王様は、何も知らなかったので護衛にお尋ねになりました。

 しかし、護衛は仕事をさぼっていたのでわかりません。

 これを正直に言うわけにいかず、料理人に尋ねましたが……

 結局、王女様は部屋にいますということになりました。……

「うーん、なんでこんなことになったのかなあ」

「おまえのせいだろう」

「まあいいか。それで、今日は何する?」

「そうだな、そろそろ雪山に行くのもいいかもな」

「よし、決まりだ」

 護衛官の一人は、王様の食事をつまみぐいするために、厨房に入る役目を引き受けました。

 獲ってきたうさぎやカモシカを料理人に渡すと、自分は一番おいしいところをひょいひょいと口に運びます。

「うまい!」

「おい! 全部食ったらだめじゃないか!」

「いいんだよ、これくらい」

「まったく、しょうがない奴め」

「へっへへへ」

「ところで、最近おかしなことはないかい?例えば、誰かに見られているような気がするとかさ」

「神様じゃあるまいし、一体誰が見てるって言うんだ」

 しかし、箱舟の女神は知っていました。

 彼らは王様が女王様に、女王様が護衛に護衛が料理人に王女様の行方を尋ねるたびに、嘘をついていたのです。

 王女様は部屋に引きこもってはおらず、森で王子様と逢っていたのでした。

 そして、試しのとき。

 決定的なことがおこってしまったのです。

 王様が森の上で光る箱舟を見つけた時、王女様が振り返って叫びました。

『お父様なんて嫌い!』

 その瞬間、王子様の持っていた剣が、王様の胸に突き刺さりました。

 王子様は言いました。

「これでボクたちはずっと一緒だよ」

 それからは、あなた方がご存じの通り。

 王女様の護衛と料理人と、はからずも女王様、この者たちは自らの意地悪と嘘の報いで一生目が見えないままになりました。

 そうして、歴史から一つの国が消えたのでした。


 END

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