第395話 いちばん星のドレスを読みました。

 あんびるやすこさんの書かれるものは、コレクター精神をくすぐられます。

 なんでも魔女商会③です。

 シルクという魔女と奈々というお友達のお仕事がんばり物語。


 世界観が奥深い。

 創造性と工夫にあふれたお仕事現場。

 魔法にしかできない働きをするヒロインたち。


 ヒロインは変身するわけじゃない。

 むしろ、衣装によって依頼人を変身させるという裏方仕事。

 だけど、ドレスの真の価値がわかったり、夜空の色に布地を染めたり、雪の結晶をアクセサリーにしたり、生きた獣をマフラーにしたりと、知れば知るほどすてきな魔法たち。


 魔女のシルクは勝気な眉毛の才気あふれる瞳をしている。

 内容にはわがままそうだって書いてあるけれど、本当は違う。

 依頼人のためにあれやこれやと意匠をこらす職人さんなのよ。


 わたくしも勝ち眉だから、わがままだろうとか、きっと一人っ子で甘やかされて育ったんだと言われてきたけれど、全然違う。

 ひかえめでおとなしくて、口数の少ない頑張り屋さんだった。

 今はのんびり暮らしているけれどね(なんせ隠遁者)。


 だから、わたくしはシルクの魔法が好き。

 同じ眉をしたシルクの考えることが好き。

 わがままだと言われるシルクのお仕事が好き! だって、本当にすてきなんだ。


 夜空の青さといちばん星をかたどったドレスはなんて美しいのだろう。

 イラストにもあるけれど、オシャレでモダンで、オフィシャルよ。

 こういう服をつくれたらなあ、なんて思う。


 だけどわたくしは家庭科が苦手。

 お菓子や料理は作れるけれど、型紙を使ってぬいしろを計算して布地を切る、ということが苦手でにがてで。

 だって、どうしてもチャコペンで書いたとおりに切れないの。


 パジャマだって、右の前身ごろを二枚作っちゃったりして、布地が足りなくなるところだった! 

 裏地をつける? 何それって感じ。

 なんにも見ないでできるのは、ぞうきんと巾着くらいってなもん。


 ふにゃ……書いてて悲しくなってきた。

 あのころの脱力感が蘇ります。

 だからこそ、お裁縫? お仕事ですっていうシルクが憧れなんだ。


 魔法でドレスが作れたら、最高! しかもそれを着て喜んでくれる人がいる。

 素敵な話! ステキな魔法! しかも、毛皮を使うのにあたって、動物を殺さないっていうのがいいわ!!! 生きたほっきょくぎつねは真っ白でふあふあで、青い目がきれい。

 なんてったって、あったかい。


 ふわふわの気持ちになれる、いいお話。

 そして物語だからして、着る人の気持ちにもなれてしまう。

 コンテストにさっそうと現れて、ダンスを踊って女王の中の女王になるって、きっと気持ちいいわよね。


 一粒で何回も味わえてしまえる、あんびるやすこさんの御本は少女になったような気持がして、とってもきゅんとします。

 小さいころに、なにひとつ叶わなかったことも、本の中ではかなってしまう。

 そんな御本なのよ……。

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