第187話 2020/02/13/木 むかっとな。

 部屋の灯りが切れたから、母が言う。



「お母さん、自分の部屋のをつけたの。簡単だったから」



 やってくれるという。

 わたくしは背丈に不安があるため、それではと頼んだ。

 すると母、買いたての照明器具とハサミを部屋に持ちこんで、バリバリ、ばっつんばっつん、ぐしゃ! とやる、不安だ……。


 まず照明器具を取り外して、出しておいた新品と見比べる。

 外した方は、床に置き、新品を出した箱も置きっさらし。

 猫が床の上ではしゃいでるから、心配になって、



「猫が遊んじゃうから、先に箱を外に出して」



 というのに、母はのんびり、



「あとで」



 と聞き流す。

 理由もはっきり言っているのに、何を過信して。

 母がイスから転がり落ちたら、猫がつぶれちゃうじゃない。


 しかし、聞かない。

 その割によくしゃべる。



「取り付けは三段階になっているのよ。簡単」



 と言いながら、器具を取り外しから取り付けまでを実況していく。

 はっきり言ってうるさいな。

 黙ってやってくれないものか、案じる。


 基盤を取り付けるのに、背を伸ばしていたようだから、腰に負担がかかるだろうと思い、ちょっと休憩入れたら、と言ったのだが、聞かない。

 ずん、と胸が悪くなる。



「これを、回転しなくなるまで、右に回す!」



 と言いながら、また背を伸ばしてがたがたがたがた。

 傘はちゃんとついてるように見える。

 それでも納得せずにふうふう言っているから、わたくしの出番。


 はっきり言って、わたくしは自分が動く方が気が楽なので、胸がすいた。

 なんとかついた。

 そうしたら、今度はリモコンがどうとか言い始める。


 いいよ、リモコン受けなんてというのに、



「取り付けないと、絶対、リモコンが行方不明になるから!」



 と言って、ベッドの頭のところに、無理な姿勢でネジを押しこもうとする。

 ネジは斜めに入ったらしい。

 一旦、そこからどいて、母の邪魔にならないようにすると、母はネジを引っこ抜き、今度は力を込めてばっつんばっつん、ネジの目がつぶれる音を立て始める。


 ああもー! そばにある画びょうで一回、目星をつけたら? と言っても、



「そうね」



 と言ったきり、凝りもせずにがつがつ音を立てている。

 やがて、そのやり方ではだめだと悟ったのだろう、画びょうを壁から抜いて使ったらしい。



「ほら! 画びょうで止めたら解決!」



 というが、それではリモコンがケースに入らない。

 しらけていると、また作業開始。

 これも実況入りである。


 その間に、猫が、空になった段ボール箱の中でがさごそ、遊び。

 母は、ふうふう言いながら、斜めにネジを入れようとする。

 本人はまっすぐ入れようとしているらしいのだが、ドライバーの向きが斜めになっている。



「あ、そうね。まっすぐにしなきゃね」



 言われて初めて、ドライバーを垂直に壁にむける。

 終わると、どうだと得意げなのでおかしい。

 子供みたいだな。



「ありがとう。お疲れ様」



 言ったが聴こえたのか、わからない。

 猫が遊ぶ空箱をもって部屋を出ていった。

 あとで、剃刀を洗面所にもっていったら、廊下にいらなくなった照明器具がおいてあり、大変邪魔くさかったが、猫がうれしそうなのでよしとする。


 母の、忠告無視はむかっとくるし、正直またかと、嫌な気持ちがする。

 母は好きだが、雑用ならば、わたくしがやってきたから、わたくしのほうがうまいのだ。

 それなのに、本人がやりとげた感でいっぱいなので、どういったらいいのかわからない。


 おまけに、いらなくなった蛍光灯を、



「二階のキッチンにつかえないかしら!」



 と言い出す始末。

 母! 蛍光灯はもはや店で取り扱ってないって聞かなかったのか?

 古いものは捨てようよ! ねえ! どう考えてもサイズがミスマッチだし!


 とは思えど、なにも廊下に打ち捨てなくてもいいだろうと思うのだ。

 雑用をやってもらっておいて、いろいろ言うのはなんだけれど、黙って見ているだけでも疲れる。

 母の実況癖は直らないのかなあ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る