第100話 詐欺に目をつけられた2019/11/14/木

 十月の終わりだったか十一月の初めの時に、家に泥棒の下見が来たのだ。

 それは一見地味すぎで印象に残らない格好をしていて、やせぎすの長身であるが、頭髪だけはワックスでつんつんさせていた。

 魚のようなタラコくちびるで、耳に黒いワイヤレスのイヤホンジャックをしていて、あれで我が家の中の音を聞いていたに違いない。


 で、なんでそう思うかと言うと、今日私のもとへ7時ごろ電話が来たのである。

 KDDIの名前を出すから「なんだろう」と思っていると、「光回線の……」と続けるから、「うちは一切お断りしております」と言ったのに、続けて「いえ、KDDIから光回線の契約の勧誘で……」というから、もう一度「うちは一切お断りしておりますので」と言ったら今度は「いえ、勧誘ではありません」今、勧誘だとおっしゃったでしょうと言ったら「いえ、勧誘が来て困ると最近苦情が来ておりまして」とやるから、こちらの核心に背きたいだけだな、と思って「うちは一切関係ありませんから」と三回も言ったのに、「いえ、それで……」と一切耳に入れないで話を続けようとする。

 こちらの話を聞きもしない相手の言うことを、誰が聞くもんかと、さっさと受話器を放置してもとの作業に戻った。

 私はスコちゃんのエサをこしらえねばならなかったのだ。


 忙しかったのに、母が「KDDIさん? ここ三日、ずっと電話着てますけれど、娘が嫌だと言っていて」と変な応対をしてしまったらしく、切って5分もしないうちに私宛の電話を父が子機でとってしまった。

 しつこい電話対策に、母は留守電に切り替えたというのに、父が、おろおろと、しかし口調は押しつけるように厳しく私にかわれと言ってきた。

「折り返し電話するから電話番号を聞いておいて」と言ったのに、父は面倒な子機を私に押しつけたくてしかたなかったとみえる。


 なんてこった。

 詐欺撃退の防止策が我が家では父母のうっかりの連続で、まったく機能していない!

 父にはあとで母から注意しておいてもらった。


 で、これがなんで詐欺とわかるかというと、先のNHKを名乗る泥棒の下見があったからで、なんで泥棒の下見とわかったかというと、その言動を詳しく母に話したところ「おかしい!」となったからである。

 うちはNHK受信料を払っているのに「公共料金の契約手続きをしていただかないといけません」と言ったからである。

 世帯主の有無と、仕事と、私が既婚であるかを二回ずつ聞いてきたし、こちらが用心してドアから話しているのに、「ちょっと失礼いたします」とか言って、門を勝手に開けて入ってきたのである。


 これはもう、不法侵入!

 私はおびえて扉の中へ身をひっこめた。

 相手はイヤホンジャックをドアの方へ向け、無意味なチラシが挟まった(およそNHKとは関わりのなさそうな)黒いファイルをもって、近づいてきた。


「はあ? あなたの話、よく聞こえませんでしたー」という体で、質問を繰り返してきたのである。

 私はうっかり、私がこの家の娘であることと、父は現住所にいないこと、母が世帯主でありパートタイマーであることをしゃべってしまった。

「そんなことを聞くなんて、NHKの人間じゃない!」というのが母と私の共通認識であった。


 そんなことがあった直後のことなので、私は徹底して電話を無視したのであるが、よく考えなくても、6時過ぎに営業している会社はありえないから、そんな電話は無視してよいのだ。

 OK.私、間違ってない。

 相手がすっかり沈黙して、ビープ音を鳴らしている子機を、母が父のところへ持って行ったのであった。






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