第84話 結婚相談所から電話がきたよ?

 おかしいのである。

 11:44AM。

 妹の名前で、結婚相談所から電話が来た。


 うっかり出てしまったが、普段は留守電にしてあるのでこういうことはないのだが。

 しかし、妹、結婚してるぞ?

 なんで妹あてに、結婚相談所から、実家に電話がくるのだ。



「(妹の名前)さまでしょうか? お母さまでいらっしゃいますか?」



 って、はい?

 姉ですが。

 嫁に行く気のない実姉ですが!?


 ボア・ハンコックのスカートからはみ出したおしりを見ながら、今日の日光はフィギュアによろしくないなと思うわたくしです。

 ボア・ハンコック、立たせておくと倒れないか心配なので、うつぶせた格好で横倒しにしているわけだが、フラ*・ダイ*モンド・シッ*は安価な割にとてもいい仕事をするメーカーさんだなと思う。


 スカートの中身まできっちりつくってあるからね(下着はつけてます)。

 むっちーん! な胸元も、ほっそいウエストのくびれも、ボリューミーでスラッと長い足も見事だ。

 髪の毛もしなる。


 美しい。

 あまりに美しいので買ってしまった。

 Book Offのフィギュアコーナーの棚の一番上に、添え物のようにさりげなく置いてあったのだが、このわたくしの目はごまかされない。


 まあ、このボア・ハンコックが一番安い買い物だった。1,000円しない。

 顔もスタイルも、ポージングもパーフェクトなのにこのお値段!

 大切にしよう……。


 同時期に買った、ルフィとベジータは国産ではない。

 しかし、頑丈にできていて、これも貴重だ。

 ルフィの隣には、エースのフィギュアが並んでいたのだが、なんだかエースの上半身はなまめかしくて目の毒なので、欲しいけれど我慢した。


 ルフィは、銃弾でも浴びたのかという、穴の開いた黒い上着をはためかせて、両の足に体重を乗せて拳を振りかぶっているが、別に好きで買ったわけでもない。

 なにかの勉強になるかなと思っただけで、まさか同じ日に買ってきたにゃんこに頭をかじられる羽目になろうとは思いもしなかった。

 不憫だが、そこに惹かれないでもない。


 ベジータはね、レスラー筋肉を超えた抜群のスタイル。

 台がなくとも、平らなところなら、ちゃんと立ってくれる。

 がっしりしていて、ぐっとつかんでも壊れなさそうなのがいい。


 これをね、母が、甥っ子にあげたら? とか言うのだ。

 わたくしもまじめに考えた。

 ちょうど三体ある。


 お色気ハンコックはKくん、ゴム人間ルフィはYくん、戦闘民族の王子さまはRくんに、と思ったけれど。

 誕生日前と正月にしかこないお子様に、何千円とするお宝を与えなくちゃいけないのか。

 あげる気になっているわたくし、どうもおかしいのである。


 Kくんは6歳児で、ハンコックの肢体は目の毒だし、Yくんは貸してあげたワンピースの漫画の感想を言ってくれない。

 Rくんに至っては、意思疎通もままならない幼児である。

 なんでそんなに、こびるわけ、わたくし。


 これらは、執筆にあてるために資料として買った。

 資料は使うものだ。

 それ以上でも以下でもない。


 そう言って購入したフィギュアを、母はなぜ「あげなさい」というのか。

 とんでもない人である。

 だって、ベジータなんて、ゲームソフト一本分くらいするんだよ?

 自分の私心を交えず、役に立つと思ったから購入したのに、おかしいでしょう。


 わかった。

 母が悪い。

 説明したというのに、勘違いをしている母が悪いのだ。


 わたくしが遊びでそれらを購入したと思っている。

 着せ替え人形と同じだと考えている。

(母は、モデル人形にアダルトなのを買ったらどう思うか、いけないか、と尋ねたら、貫頭衣でも巻き付けて、紐でぐるぐる縛っておいたらいい、と、頓珍漢な回答をした人だ)


 遊びは大事さ。

 楽しいのが一番に決まっている。

 大人の楽しいは、子供の楽しいと違うのだが。


 大人の楽しいは、創作に、売り物になるかならないか、ということにつながっている。

 この品質ならば、大きいお友達も購入するのだな、いくらいくらくらいで。

 とかいう、勉強なのだ。


 幸いなことに、わたくしの趣味は、今のところ男の子たちにドンピシャだ。

 コロコロコミックもOK.だったし、ミラクルチューンズのDVDもヒットだ。一番ちっちゃい子は、今はお父さんと一緒のほうが楽しそうだからノータッチ。

 彼らの中でおもちゃ文化が確実に育っている。


 オタク文化は刺激的だし、今から染めちゃっても別にいいが、お金がかかるしね。

 困るのはママたちでしょう。

 今でさえ、出費がかさんでいるというのに。


 あー、そっか。

 だから、母は、わたくしにも金を出せと、おもちゃでもなんでも、よこせと言ってきているのか。

 残念ながら、わたくしは貧乏人なので、セレブなお子様に合わせて散財したくはないのよ。


 それにね? たとえば、わたくしがKくんにお色気爆発ハンコックフィギュアを与えたらだよ?

 ママがさぁ……困らないかなと。

 胸の谷間だけじゃないんだよ? ハンコックは黒い下着までつけてるのが見えるんだから。


 教育的にどうなのそれは。

 ハンコック、ボンテージに鞭を持ってるのよ? 太ももに絡めてるのよ?

 さあ、さあさあ、どうなの?(笑顔)


 Yくんが興味なさそうなゴム人間も、頭髪がつんつんとがっていて、目にささったら痛そうな戦闘民族フィギュアも。

 与えたら与えたで、責任が生じるじゃない。

 しかも、危険な部分そのものが、受ける要素なわけで。


 困るのよ。

 大人の面白い、は子供に危険なのがね。

 それ以上に、オタク文化に染まった彼らを、愛せる自信がないよ。


 ハンコックフィギュアにメロメロメロウなKくんとか、「ゴムゴムのピストル!」とか言ってるYくんとか、「カカロット、おまえは俺が倒す!」とか言ってるRくん、それはそれで痛々しいから!

 ねえねは見てらんないから。

 責任もてないから――!


 そんなわけで、今更三人の子と夫がいる身で、結婚相談所から連絡が届いてしまう、妹よ。

 今のところ、実家でネタにしておくのは控えめにしておくから、だから、わたくしのお財布事情まで浸食するのはやめておいてください。

 でも母には事情を聞くけれどね? 旦那さんとはどうやって知り合ったのか、とか、虚実はっきりさせてもらう。


 まあ、相談所の件は、図書カード目的でアンケートに答えたのがきっかけ、とかだったら、しかたがないけれども。

 わたくしも、キャッチにひっかかったとき、妹の名前使ったし。

 苗字なんて言うわけないじゃない。


 もちろん、お金も出さない。

 誕生日でもないのにおもちゃをさんざん買い与えるなんて、けじめがないわ!

 べつに、自分が子供の頃におもちゃをもらったためしがないから、とかじゃないわよ!? ばあばの感覚を、ねえねにおしつけないでもらいたいのよ!






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