未来への一歩 〜コンドーム〜

戸田 剣人

第一歩

 高校1年の6月、梅雨の憂鬱な気分を、一瞬で吹き飛ばす出来事があった。




 俺はいつものように学校から帰ろうとして下駄箱の自分のロッカーに手を掛け、靴を出して履いた。すると後ろから俺を引き止める声がした。


「柳楽君!」

「…?」


 声の主は同じクラスの中川姫華ひめかだった。中川は周りに誰もいないことを確認すると彼女は、俺に真っ直ぐ対峙して言った。


「あの…、好きです!付き合ってください!」


 そう、憂鬱を吹き飛ばす出来事とは、俺――柳楽冬仁ふゆひとが、人生で初めての告白を受けたことである。

 中川は、肩甲骨ほどの長さの髪を下側で結んでいて、顔立ちもまあ…、否、整っている。つか、ぶっちゃけ超タイプだ。

 彼女は両手をスカートのフロントあたりで組んで、恥じらいながらも声を張っていた。


「もちろん!これから宜しくお願いします!」


 俺は二つ返事でOKした。こんな可愛い子から告白されるなんて夢にも思っていなかった。これで彼女いない歴=年齢という非リア状態から抜け出せる!凄い嬉しい。なんか空が凄く明るく見える。これが恋のパワーとかいうやつなのか。


「ところで、どうして俺のことを好きになったんですか?」


 俺がそう尋ねると、彼女はとても嬉しそうな顔をした。余程聞いてほしかったのだろうか。彼女はその晴れやかな顔をこちらに向け、


「放課後、いつも残って掃除をしたり、雑務を進んで引き受けてくれているの知ってるよ。凄く優しい人なんだなって」

「あー、見られましたかぁ。少し恥ずかしいですね。でもありがとう」

「改めて、これから宜しくね!」


 こっ、これは…、見たことあるやつだ!腕を後ろで組んで、少し体を前のめり。少年漫画のヒロインがやるあのポーズじゃないか。くそっ、あざといな…。可愛すぎかよ全く…。




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 俺は帰り道にこれから彼女とどんなことをしようかを考えていた。

 我が家へ着いて玄関を開けると、妹が立っていた。そして開口一番、


「お兄ちゃん、ニヤニヤしてキモい!!」

「えっ、ニヤニ…!?」

「何かあったの?」

「いっ、いや、別に…」


 俺は心の中を勘付かれないように平静を装って振り切り、急いで自分の部屋のある二階に駆けて行った。


「お母ーん、お兄ちゃん何かあったみたい。多分女の子絡みで」

「へー、まあ冬仁も年頃の男の子だもんねー」


 とはいえ実際のところ気付かれていたようである。


 俺は自分の部屋に入ると、真っ先にスマホに向かっていた。すると、SNS通知が一件。開いてみると、さっき連絡先を交換した姫華ちゃんからだった。


「冬仁くん、これからよろしくね!」


 わざわざ漢字表記をしてくれるところも律儀で好きだ。かわいい。

 すると一階から妹の声がした。


「お兄ちゃん足うるさい!!」


 あ、足をバタバタさせてたのか。素直にごめん。




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 翌日、学校―――


 俺は、めんどくさい朝の時間が気にならないくらいの高揚をしていた。そしてそれは顔に出ていた。


「おい柳楽、何してる」


 今声をかけてきたこいつは下田祐樹ゆうき、中学からの仲なのだが、すごくいい奴。すごくいい奴なのだ。

 俺は投げかけられた質問に答えを返す。


「いや何って、何もしてないけど…」

「じゃあなんでそんなにニヤついてるんだよ」

「えっ、マジで?ニヤついてた!?」

「ああ、だいぶ気持ち悪いぞ」

「ごめんねー。まあ許してくれ」

「もしかしてでも出来たか」


 祐樹はそう言って右手の小指を立てた。軽く馬鹿にしたような顔で。

 俺はそれに対して軽くドヤ顔をしながら、フッと息を吐いて…、


「まあね」


 ―――瞬間、祐樹の形相がみるみるうちに変わっていった。勿論悪い方向に。


 その青ざめた顔で祐樹が言う。


「お前、嘘だろ」

「それが、本当なんだよね」


 祐樹の顔色は早退したほうがいいのではないかと思うくらいのレベルに達していた。

 そんな話をしていると、教室の反対側から女子達の驚く声が聞こえた。

 声のする方が気になって見てみると、姫華ちゃんが他の女子達から質問責めに合っていた。


「えー!姫華ちゃんそれ本当なの!?」

「う、うん…」


 姫華ちゃんは恥ずかしそうに頷くと、こちらの視線に気がついたようで、俺の方を見てそっと微笑んだ。

 それを見ていた他の女子達が思い思いの歓声を上げる。

 …ったく、キャーキャーうるせえ。とはいえちょうど良かったので紹介しておこう。

 俺は祐樹の方を向き直した。そして姫華ちゃんの方へ親指をクイクイっとした。


「あの子あの子」

「マジか…」


 祐樹は悔しそうに顔をしかめると自分の席に戻っていった。




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 気がつくと、1日の授業は終わっていた。そして隣には姫華ちゃんが立っていた。


「冬仁くん一緒に帰ろ」

「あ、中川さん。勿論良いよ」

「もう、付き合ってるんだから名前で呼んでよね」

「ご、ごめん。そうするよ。でもなれるまでは不意に出ちゃうかもしれないからそこは許してね」


 うおおおおおおお…、や、やべええええええ…、女の子慣れしていない童貞感がつい出てしまった…。女の子を直接名前呼びとか幼馴染以外にした事ねえ…、経験の薄さを気付かれてしまったか?

 と思ったが意外とそんな事なかった。姫華ちゃんは俺の言葉を聞いてとても嬉しそうな顔をした。そんな顔を見せられるとこっちまで嬉しくなるよ全く。


「うん、分かった!」

「じゃ、そう言うわけだからまたね」

「待って!」


 そういって立ち去ろうとした俺の腕を姫華ちゃんが掴んだ。

 不思議がる俺に対して姫華ちゃんが言った。


「もう、冬仁くんったら一緒に帰るんでしょ」

「あ、そうでした」


 …皆様にご報告があります。本日の柳楽氏、午後になって気が付きましたがとてつもなく絶不調です。童貞はこれから頑張って挙動不審を克服していこうと思います。




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 俺は姫華ちゃんに付いて我が家とは真逆の方向を歩いていた。特に会話はなかったが、姫華ちゃんが楽しそうなので良しとしよう。

 そうは言っても会話が全くないのも寂しいので、質問をしてみることにした。


「なっ、中川さんは家どこにあるの?」

「また苗字で呼んでるー、もう。ちなみに家はここだよ」


 またもや苗字で呼んでしまった…。心の中ではなんとでも呼べるんだけどなあ。…って、え!?今なんて!?


「家ここなの!?」

「うん、そうだよ」


 そう言って姫華ちゃんは目の前に建っているクリーム色ベースの趣のある家を指差した。


「家、寄ってく?」

「あ、いや、今日はこの後用事があるので帰ります」

「そうなんだ…、残念だね。じゃあまた明日学校でね」

「うん、また明日」


 そう言って俺は帰路についた。


 …ていうか嘘ですごめんなさい。用事なんてありません。いきなり家に上がるのはハードルが高すぎただけです。

 取り敢えず帰ったら今日の反省会だな。果たして眠れるのか…?




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 1日のことをしっかりがっつり反省して次に生かそうと思っていたのだが、家に帰り自分の部屋に着いた途端、緊張が解けてそのまま眠ってしまったらしい。

 次に意識が確認できたのは、翌日の朝五時のことだった。

 昨夜はシャワーも浴びずに眠ったので、起きてから真っ先に浴室へと向かった。

 風呂から上がってスマホを確認すると、姫華ちゃんからのメッセージが沢山来ていた。

 そのほとんどが安否確認のメッセージだった。いや、俺は一体なんだと思われているんだ…。

 あ、前半は割と今日のことが書かれていたわ。早とちり早とちり。



 俺は時間が余ったので先に学校に行く準備を済ませ、自室からリビングへと向かった。

 リビングに着くと母が朝食の支度をしていた。その母がこちらに気づき、


「冬仁おはよう」

「うん、母さんおはよう」


 朝の何気ない会話。きっとなんの変哲も無い言葉のやりとり。だったのだが、俺は今まで母からの挨拶に返事をしたことなど無かった。自分の中で心境の変化というのは、確かにあったのだろう。


「ご飯できたよ。今日は時間に余裕があるからゆっくり食べてね」

「ああ、そんな気遣いはしなくていいよ母さん」


 やはり俺が返事をすると母はとても嬉しそうな表情をしていた。そんな顔を見るのは少しばかり気分がいい。心に余裕ができるというのはきっと良いことなのだな。




 食事を済ませると、俺は用意しておいた学校の用具を持って、さっさと家を飛び出した。

 何故かって?そんなもの姫華ちゃんがどれくらいの時間に学校についているかわからないからに決まってるだろう。

 …、愚問中の愚問だな全く。




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 学校に着くと、もう既に姫華ちゃんは自分の席に着いていた。当然のことながら俺は一番乗りだと思っていた。だが二番乗りだったみたいだ。


「ひ、姫華さんおはようございます」

「おはよう冬仁くん。でも敬語はやめてね」


 俺がぎこちなく挨拶をすると、姫華ちゃんは優しく微笑んでくれた。それだけでなんとなく1日が乗り切れそうな気がした。

 というか、実際乗り切った。まあ全然授業は聞いてなかったけども。




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 姫華ちゃんと付き合いだしてからというもの、日々の流れはとてつもなく早かった。

 あっという間に梅雨の時期が終わり、そして期末テストも過ぎ去った。もちろん爆死したけどさ。

 そして瞬く間に一学期の終業式の日になった。

 俺はいつもの如く祐樹と駄弁っていた。



「あー、今日でお前ともお別れか。達者で暮らせよ」

「いや二学期になったらまた会えるし。大体お前とは何度か遊ぶ約束をしてるだろう」

「そうでしたそうでした。あっひゃっひゃっひゃっひゃ」

「なんだそのキャラ気持ちわりぃ」


「おいお前らー、式に向かうぞそろそろ並べー」


 担任に声を掛けられて、クラスの連中はブツブツ何やら色々言いながら廊下に並ぶ。

 全員を並ばせ、教室を施錠したことを確認すると、担任が会場である体育館へ生徒を引率する。


 式が始まると、真っ先に校長の長ったらしい話があった。

 大半の生徒が眠りこけていたのだが、俺は後ろの方で姫華ちゃんが見ているかと思うと寝たくても眠れなかった。多分好感度増したと思う。


「冬仁くん前回の集会の時には寝てたのに何で寝てないんだろう。私の目を気にしてるのかなあ」


 …、あらまあ、察しの良すぎる女性ですこと。




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 式が終わると、俺たちは教室へと戻ってきた。なんかいつもより疲労感が多い気がする。てか校長は何を話してたっけ、忘れちゃったな。

 どうせ全国どこでも大体一緒だろ。なんとなく予想はつく。別に無理に思い出さなくたって良いだろう。



 そんな事を思いながら机でウトウトしていると、姫華ちゃんから話しかけられた。


「冬仁くん、今日の放課後暇?もし良かったら駅前に新しく出来たカフェに行きたいんだけど」


 こっ、これはまさか高校生のリア充イベントのうちの一つ、学期終わりデートとか言うやつなのではないか!?俺の中で気持ちの高揚が感じられる。

 …でもごめん。

 俺は大変心苦しかったものの、意を決して断った。


「本当にごめん。この後はとっても大事な用があって…、どうしても外せないんだ」

「そっか…冬仁くんって忙しいんだね」

「それじゃあまた連絡するね」


 俺は足早に教室を後にし、自転車に飛び乗って家へと向かう。向か…、痛っ!ん?

 俺の自転車は、ガシャンと変な音を立てた。そしてサドルは俺の股間を打ち付けた。

 どうやら急ぎすぎて鍵を外すのを忘れていたらしい。

 ちんちんが痛すぎるんだが?



 なんだかんだ股間打ちという試練を乗り越えた俺は無事、家に着くことに成功した。

 家に着くと真っ先に自室のクローゼットを開いた。

 取り出したのは、デザインが気に入って購入したは良いものの、俺には似合わないと思って一度も着ていない服。動物のプリントとかチャラすぎて俺には無理。そんなシャツ。

 あと、左右で色が非対称のジーンズ。我ながらよくこんなデザインのものを見つけてきたものだ。

 俺は速攻でそれに着替えた。そしてこれ!レンズが虹色のサングラース!…と、マスク。とても奇抜です。

 何でわざわざ姫華ちゃんの最高たる誘いを断ってまでこんな格好をしているのかと言うと、俺(俺たち)が、大人になるための準備をするためだ。つまり、コンドームを買うためです。

 いやあ、やっぱり彼女ができるとそういうことも考えるじゃないですか。

 ま、そんなわけなので行ってきます。わざわざ遠出をするのは面倒なので、行きつけのコンビニエンスストアに行きます。そこで恥ずかしいから身バレするわけにはいかないのですよ私は。ええ。



 そのコンビニは、俺の家から自転車で5分ほどの所にある。週に三、四回のペースで行くほどよく利用している。まさにコンビニエンスである。

 俺はコンビニに到着すると自転車を止めた。取られないように二重ロックをしっかりとかけて。

 店内に入ると入店のベルが鳴った。普段は全く気にならないものなのだが、今回は妙にビビった。心臓に悪いな。


 コンドーム売り場は前に下調べをしたので知っている。できるだけ迅速に執り行いたかったので、俺は自然と足早になっていた。

 正直な話ゴムのことはよくわからない。知識に関しては毛頭ほどもあるかどうか自信がない。


「うーん、これが良いのかなあ…」


 俺は直感で、厚さ0.02ミリメートルのものを手に取った。装着してみないとわからないのだろうが、どうしょうもないので、そのまま買うことにした。

 俺は何度も買いにきている丁を装ってレジに向かった。

 すると、レジの人が、


「あら、いつも来てくれるお兄ちゃんじゃない。彼女でも出来たの?うふふ」

「あ、ああ…」


 あっ、あああああああああああ!!!!

 …っ最悪だ。今すぐ消えて無くなりたいくらい恥ずかしい。俺はさっさとお金を払うと、お釣りも受け取らずに走り去った。

 そして自転車に飛び乗り…、鍵は外さなきゃ。自宅へと全力で漕いだ。




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 家に着いた俺の中には、清々しいまでの達成感が滾っていた。


「やりきったぜ。今日は眠ろう」


 俺はそのまままた、風呂に入らず眠ってしまった。




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 夏休み初日、俺は重いまぶたをぶっ叩き、最寄の駅まで向かっていた。姫華ちゃんとのデートだ。行き先は、昨日行けなかったカフェ。

 カフェに着くなり姫華ちゃんは、机一面に広告を広げた。


「冬仁くん、ネズミーランド行こっ!!」

「ネ、ネズミーランド…?」

「え、冬仁くん知らないの?」

「いや、知ってるよ。千葉にあるくせに東京を名乗っているあれでしょ」

「そうですあれです。よくご存知で」



「ま、今回はそれを伝えたっかただけで、本当は映画に行きたかったの」

「じゃああれが良い。ヒーロー達の戦い!」

「あ、あれね。CMで最近よく見るよ」



 そして俺たちはカフェを出、俺の意見そのままに『ヒーロー達の戦い』という映画を観た。

 観終わった後、姫華ちゃんはとても疲れているように見えた。思えば、これが、俺が変わらなければならなかったサインだったのかもしれない。ていうかよく考えたら絶対興味無かったもんな。



 そしてそのままその日は解散した。




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 夏休みも後半に差し掛かったある日のこと、ついに俺の中で決心がついて、姫華ちゃんの家に上がることができた。

 そこでは彼女がハマっているという恋愛ドラマを観た。視聴している間は、とてもキュンキュンしているように見えた。俺はつまんなかったけど。

 ふいに、彼女が俺の手を握って来た。急な出来事にドキっとして彼女の顔を見ると、向こうも顔を見て来た。どーしよー心臓の鼓動が止まりませーん。股間が痛いです。

 彼女が恥ずかしがって視線を落とすと、俺の股間の膨らみに気がついた。


「えっ!?」


 彼女はとても困惑した様子だった。しかし、数秒の沈黙の後、


「胸くらいだったら、触っても良いよ」

「えっ、良いの…?」


 俺は恐る恐る彼女の胸に手を伸ばした。そして触れた。今までに感じたことのない感触。だけどどこか懐かしいような…。そうか、これがおっぱいか。

 俺は時間も忘れてその感触を楽しんだ。とてつもない幸福感が、俺を包み込んだ。

 暫くすると姫華ちゃんが、


「冬仁くん、長い」

「あ、ごっ、ごめん!!」


 俺は急いで彼女の胸から手を離した。結構気まずい。


「ところでひっ、姫華さんは、サイズい、幾つなの?」

「一応Cです。多分平均くらいなのかな」

「あっ、そうなんですか」


 沈黙が続く。

 俺はこの気まずさに耐えきれなくなった。視線を逸らそうと時計を見ると十九時を過ぎていた。

 俺は帰宅しようと立ち上がった。


「じゃ、じゃあ俺は帰るね」

「ま、待って!」


 姫華ちゃんはそう言うと俺の腕を握って手繰り寄せた、そしてそのまま唇を重ねた。俺はどうすることもできなかった。されるがままだった。

 姫華ちゃんが唇を離す頃には、互いの体温はすっかり上がっていた。

 俺はその高揚の行き場がないことに少し残念がりながらも、中川家をあとにした。

 姫華ちゃんは玄関先まで見送りに来てくれた。その目は、少しだけ潤んでいるように見えた。




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 俺は興奮冷めやまぬまま帰路に着いた。そして自室のベッドで自分の唇を触りながら眠りについた。




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 夏休みがもう終わる頃…、つまりは、俺が宿題に追われている頃、姫華ちゃんから呼び出しがあった。

 俺は指定された公園に着くと、姫華ちゃんを探した。いなかった。



 数分後、姫華ちゃんがやって来た。なんだか重苦しい顔をしていた。

 姫華ちゃんは寂しそうな顔をしながら息を吐くと、こう切り出した。


「ごめんなさい冬仁くん、別れてください」

「!?」


 俺は、意味がさっぱりわからなかった。頭がおかしくなったのかと思った。聞き間違えたのかと思った。しかしそれは、姫華ちゃんの神妙な面持ちに打ち砕かれた。


「今までありがとう。さよなら」


 姫華ちゃんは震える声でそれだけ言うと、駆け足で公園を後にした。


 俺は自分しかいなくなったその場所でゆっくりと空を見上げた。

 持って来たリュックに手を入れると、先日買ったコンドームが出て来た。


「どうしよう、このゴム、無駄になっちゃった…」


 なんだか切なくなってきた。

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