第2話 和気藹々
何でもない朝だった。日が昇って間もない薄闇の中、飾り気のない一室で女は目を覚ます。気怠い身体を無理に起こし、ベッドの上の置き時計にしぱつく視線を向けると、セットしたアラームの時間より10分以上早いことがわかった。
長い髪を掻き上げ、誰も見ていないのを良いことに大口を開けてあくびする。雨の音に気づくと憂鬱そうにカーテンを開き、窓の外の景色に舌打ちした。
女は軽く洗顔を終えたあと、習慣づけられた動作で朝食を仕上げた。食パンをトースターにかける間、冷蔵庫から卵とベーコンを取り出しフライパンに並べ火にかける。パンが焼きあがると平皿にすべて移し替え、紙カップにインスタントのスープを放り込む。
手際がよい、というよりは機械的であった。
大して美味くもなさそうに、それをすべて胃袋に収めると洗うものだけ流し台に落とし、玄関口のチラシ受けに雑に放り込まれたそれらをかっさらった。
普通の朝だ。誰にでもやってくる、誰にとっても平等で、誰にも不都合のない至って正常な朝だ。
何不自由なく何一つ違和感のない健全な風景だ。
一度は落ち込んだ景気も今や捲土重来と経世済民が国を豊かに保ち、平穏無事な治安の都市に人々は抱かれている。
そうであるというのに、女の表情は長年晴れを知らぬかのように固く、根を張ったような不安が覆っていた。
女は自室へ戻るなり捨てるものを選別した。紙をめくる音は物悲しく、雨の音にはしかし心地よく重なった。
一瞬、女の手が止まった。目に留まったのは、数あるチラシの中でも、ひときわ安っぽい出来のものだった。手書きの催促文をわら半紙に大量コピーされたものだが、それは女を妙に惹かせる何かがあったのだ。
それは年に一度開催される、最寄りの大学の学園祭の報せであった。
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