小説は大抵ここらへんからが本編
その女は、突如としておれの目の前に現れた。
「うわあぁ!」
思わず変な声を出してしまう。うへえ、恥ずかしい。でも、今はそんなこと言っている場合じゃない。
「お前、いまおれに話しかけたのか?」
「そう」
夕日が逆光になっているせいか、相手の顔はよく見えない。服装も黒なんだろう、シルエットが真っ黒だ。
だけど、声からして女である。背はかなり低く、やけに透き通った声をしている。まるで別世界から来た異世界系だ。
っておい。これじゃまるでライトノベルの最初のシーンみたいじゃねーか。
「あなたに話があるの」
影は言った。
「話って・・・、そもそもおまえ、誰だ?」
お約束の主人公フレーズを言ってみると、その影はするすると俺の真ん前まで来て、ふっ、と顔をあげて俺を見つめた。
「わたしは鷺ノ宮依乃莉」
高めの透き通った声は自分の名前をそう告げた。だけど、その大仰な名前を聞き漏らしてしまうくらい、俺はあっけにとられた。
目が緋色なのだ。
おいおい、まさか本当にこれから異世界的なところに飛ばされるのか?いやいや、そんなことはあり得ない。おれはもう中二病は単位取得満了退学している。そんなことあるわけない。
いやいや、でもこの目は・・・。
短くショートカットになった(こういうのボブっていうんだっけ)謎の美少女の髪は漆黒という言葉でしか形容できないくらい艶やかな黒で染まっていて、これじゃまるでカラスの化身なんじゃないかってくらいだ。なんてったって、黒のワンピースに胸元には赤いリボン。これから呪いをかける儀式を始められそうだ。
なんて俺がかつての中二病的知識を総動員して対象を認識している最中にも、さぎみや、だっけ?いや、さぎのみやだ。わかりにくいな。そいつはずっと俺のことを見ている。
「それで、、、何の用だ?」
やっと口が開いた。
「あなたに来てほしいところがあるの」
来てほしいところ?
「そう」
「なんで俺が?」
「あなたはわたしとおなじ」
ますます電波系だ。だがおかしいな、電波系っていうのはきまって眼鏡をかけているのが相場なんだが。
「ついてきて」
そう言って、彼女はふわりと振り返ると、てくてくと森に向かって歩き出した。
「おい、、ちょっと待て、まだ話が」
聞く気がないようだ、歩く速度が全く落ちない。
これではどうしようもない。致し方なく俺は彼女の後ろをついていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます