先輩とあの夏、線香花火

Blue NOTE(ぶるの)

第1話 ある夏のこと



 それは、とある夏のことだった。

 学校帰りの砂浜で、僕は海を眺めている。

 赤色に染まり始めた空を見上げる先輩。

 海鳴りの中で、先輩の声だけが通った。

「ねえ、昂樹たかきはさ――」

 どことなく嬉しそうな顔を浮かべて、僕の顔を覗き込んだ。

 近づいてくる先輩をよけてそっぽを向く。

 目をそらしても、先輩はぴょんっとおどけたように視界へ入ってくる。相変わらずのニコニコ顔だ。

 先輩のそういうところは、どうにも苦手だった。いつも心を見透かしたようなことばかり。僕のことをからかって、恥ずかしがる様子を楽しんでいるんだ。

 男として、そんなの、かっこ悪いだけなのに。

 かっこ悪いところ、先輩に見せたくないのに。


 だから、僕は先輩の秘密を武器に、ちょっと脅してやろうと思った。

「あ、あーそれは言わないでよー。昂樹、意地悪だよ」

 そんな風に言われても聞かないよーだ。

 僕は耳をふさいで目を閉じた。もう何も聞いてやるもんか。これで先輩も少しは懲りるだろう。


 ――なんて、その時考えた僕が甘かったのだけれど。


 だから僕も、先輩に伝えることにした。

 あの合宿の時に決意した、僕の気持ちを……。



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