act.3-5

西暦2098年7月18日 2時10分

晴れの海沖1200km地点


「AS(アーマースーツ)部隊、全機500m間隔で散開。俺に続け」

≪≪≪了解!≫≫≫

ラビ・デルタ達合衆国宇宙軍第一艦隊のAS達が、混戦状態にあるEU・中国宇宙軍艦隊の援護へ向かう。

≪キュリオスからファイター全機へ。偵察機の映像から、敵のASは以前我々を襲撃してきた機体と酷似している。注意しろ≫

「了解。戦闘に入る」

戦場を眼下に捉え、機体をそちらに向け降下する。

月治安維持軍の駆逐艦が放ったレーザー砲を中国艦が食らうが、対レーザー装甲板がそれを受け流し、光の矢の様になって四方へ分散されていくのが見える。

宇宙空間で正規軍同士の艦隊戦。今ここで新たな戦争の歴史が始まっていた。

月の駆逐艦2隻が、中国の空母へ狙いを定め、攻撃を仕掛けようとしているのが分かる。

「KA-1、2。前方のCHNU-20006の援護に向かう。KA-4。EU艦隊と接触し、他の艦艇の撤退を援護しろ」

≪KA-2リーダー、了解≫

≪KA-4リーダー、了解≫

KA-4部隊がEU艦隊を目指して飛ぶ。我々KA-1と2はその狙われている空母へ直進する。

「全機、かなりの混戦に飛び込むぞ。気を引き締めろ!」

≪≪≪了解ッ!≫≫≫

ラビ達のASに装備されている高機動戦闘用バックパックのスラスターを吹かせ、戦場に舞い降りる。

ロックオンアラートが鳴り響き、数十発のミサイルがこちらへ向かってくる。

腰部に搭載されたフレア弾を全面に発射し、ミサイルを避けていく。

「敵艦の底を突く!」

≪了解!!≫

機体を翻し、駆逐艦から放たれたレーザー砲をかわす。

駆逐艦の対空機銃の掃射を避けながら、そのまま船の真下へ張り付く。

肩部に装備されたミサイルを4発駆逐艦の腹へ食らわせる。

艦の装甲を貫通し、内部で巨大な爆発を起こす。

瞬く間に船全体へ爆発が広がり、一瞬にして跡形もなく弾ける。飛散した駆逐艦の残骸がラビの機体を打つ。

衝撃波も音もない空間では、モニター越しに見えている世界が一瞬現実であるのを忘れさせる。

≪アメリカの宇宙軍か!? 助かった、感謝する……≫

「我々の来た方角へ撤退しろ。艦隊が退路を作っている」

≪了解した≫

中国艦との無線を切る。

≪隊長! 敵AS3機接近!≫

報告を受けた瞬間、敵ASの腰部に搭載されたレーザー砲を直に受けてしまう。

が、新たに左腕へ装備された対レーザーシールドが受け流す。

「AL(Anti Laser)シールドがなかったらヤバかったッ!」

思わず独り言を溢すラビ。

「1-3、敵をそっちに追い込む!」

≪了解!≫

退避しようとする敵のASへ機首を向けながら、右腕に持つ90mmマシンガンを放つ。

弾は当然の様に避けられるが、じりじりと距離を詰める。

「前と同じと思うなよォ……!」

加速Gが重く圧し掛かりながら追う。敵ASがバレルロールを繰り出し、他のAS達と合流しようとしている。

ラビもそれに続く。

「そこッ!」

肩に装備されたミサイルを放つ。が、フレアによって回避される。

「1-3、やれ!」

その瞬間、追っていたASをKA-1-3の装備するレーザーライフルが貫通し、爆散する。

≪ヨシッ!≫

「よくやったァ!」

上手く敵を1-3の前まで追い込む事が出来た。

≪ウワァァァ?! 1-7被弾!≫

1-7の無線を受け位置を確認し、すぐに向かう。

残り2機の敵ASが1-5と1-6を追い詰めていた。

モニターにその2機を捉え、上からマシンガンを放ちながら接近する。

即座にその2機は機体を反転させ、こちらへ向かってきた。

向かってくる2機をロックオンし、残りのミサイル3発を放つ。だが撃った瞬間レーザー砲によって撃ち落とされる。

「かかってきな……」

ラビは向かってくる2機へ真正面から突っ込んでいく。

≪隊長!?≫

ラビは機体を一度上昇させるフェイントを入れ、ロールしながら急下降し、敵の下面を取る。

そこから更にスラスターで加速を掛け、一気に接近する。

「この距離ならァ!!」

2機の間を通り抜けざまにマシンガンを叩き込む。撃たれた敵機は小爆発を起こしながら宙を漂っていく。

更にナイフを抜きながら機体を反転させ、もう1機の背後へ飛びかかる。

「オメーには色々喋ってもらうぜ」

そう呟きながら、敵機の頭部、右腕へナイフを突き立て切り落とす。

行動不能となった敵機のコックピットと思われる胴体へナイフをくっ付けたまま、全域帯無線で話しかける。

「こちらは合衆国宇宙軍だ。投降しろ、さもなくばこの場で……」

言い終わる前に敵機が脚部のスラスターを吹かせ離れようとする。が、冷静に脚部のスラスターをマシンガンで撃ち抜き完全に沈黙させる。

浮遊する敵機を捕まえ無線を開く。

「1-2、1-3.敵機を捕獲した。連行しろ」

≪了解!≫

「1-7大丈夫か?」

≪ハイ、1-4に牽引して貰い戦線離脱しました≫

「OK」

 戦場を見渡すと、敵艦隊と戦闘機隊も撤退し始めた様だ。

≪キュリオスより全ファイターへ。よくやった。EU・中国艦隊も宙域を離脱中だ。全機帰艦せよ≫



西暦2098年7月18日 3時20分

晴れの海沖2000km地点

巡洋艦モーリス

作戦会議室


 キュリオスが接舷している巡洋艦モーリスへ、合衆国宇宙軍の各艦、EU艦隊、中国艦隊の代表が集まった。

キュリオスでは無くモーリスに集合したのは、単純にモーリスにある会議室が一番広かったからである。

「先ほどは本当にありがとうございました」

中国艦隊代表が皆へ深々と礼をする。

「月軌道にはもう我々しかいません。自力で地球圏まで帰る事は可能ですか?」

キュリオス艦長フォード・フィオ大佐が尋ねる。

「えぇ。残りの船達はなんとか大丈夫です。我々もあなた方と同じく、月の情報収集が任務でしたが一度撤退します」

「分かりました。我々は作戦を続行するつもりです」

「月には近づく事が出来ません。上空800km地点まで進入した所で、艦砲とは比べ物にならない威力のレーザー兵器で、瞬く間に2隻が沈められてしましました。気付いた時には戦闘機とASに包囲され、あのような惨状になってしまったのです」

「800km……。その砲の場所は分かったのか?」

EU艦隊の代表が口を挟む。

「いえ、正確な位置は掴めませんでした。ですが、セレニティ・シティで無かったのは確かです」

「例の“見えない艦隊”かもしれませんな。我々も作戦を考えなければ」

「今の話を聞いても作戦を続けるつもりなのか?」

「任務ですから」

「ハッ、忠実なことで。これ以上の作戦は無謀で無意味だ。EU艦隊も一度撤退する」

「ご自由にどうぞ。元々我々は連合を組んでいる訳ではない。そもそも緊急とはいえ、この様な会合を開いている事すら軍法会議ものだ」

フォードが冷たくあしらう。

「あぁそうだな。自由の国は自由にやってくれ。失礼する」

EU艦隊の代表は、衛兵2人を連れて出て行ってしまった。

「……では、我々も失礼します。有益な情報も提供出来ず申し訳ない。ご武運を」

「ありがとうございます」

互いに敬礼し、中国艦隊代表も部屋を後にする。

静まり返る会議室内。

「さて、どうしたもんか」

「司令、こういうのはどうでしょう」

キュリオスの戦術航海士サラ・ジョーズ中尉が、自身の端末を会議室の機器へ繋ぎ、スクリーンへ月の地図を出す。

「今までの無人機による偵察結果から、月面侵攻直後は主要都市4つとも、300km内まで近づけば確実に破壊されていました。ですが……」

サラが画面を切り替える。

「現在月の裏側、“モスクワの海”周辺には50km圏まで近づく事が可能となっているのが分かります。恐らくそちらに居た戦力を“晴れの海”方面へ回した為、手薄に成ったのだと考えられます」

「ほう」

一同がスクリーンを注視する。

「なので、ASを主力とした偵察部隊を編制し、クレーター“ヘルツシュプルング”の影に隠れながら、低空飛行でセレニティ・シティへ近づくのはどうでしょう」

「そのルート上の月治安維持軍の分布は分かるか?」

「月基地はありません。が、各都市に駐留している師団がいる筈です」

「分かった。……では、空母ロックスリーへAS部隊を移管。ロックスリー単独で月裏側へ向かってもらう。その間、残った艦隊で月表面の敵の注意を引く為の陽動を行う同時進行で行こう――」



西暦2098年7月18日 4時00分

晴れの海沖2000km地点

空母 ロックスリー


「我々偵察部隊は、0500時に“モスクワの海”上空でロックスリーを発艦。レーダーに探知されない様、極力慣性飛行のみで月面へ降下する」

ラビがロックスリー内の会議室に着くや否や、各チームリーダーとの打ち合わせを開始する。

「3機1チームで行動。先ほど伝えたそれぞれレッド、ブルー、イエローチームは散開し、セレニティ・シティを目指す。我々ブラックチームは、艦隊への情報伝達・及び指揮にまわるため、レッドチーム後方から追従する形になる」

「了解」

「月面都市の様子、敵侵攻状況、戦力、とにかく情報が欲しい。必要な場合は宇宙港の破壊等、強行偵察も許可する」

一同に緊張が走る。

「もうあまり時間は無いが、各自準備を万全にしておけ。解散」

「「「了解」」」

 一通り説明を終え、ラビはロックスリーに居るクロを尋ねる。

「クロ、俺だ。ラビだ」

ロックが解除され静かにドアが開く。



同時刻

同宙域

空母 リトレート

独房


 敵ASのパイロットを独房へ入れる。

「月治安維持軍が何故我々に銃を向ける」

リトレートへ連行してきたASパイロット、ロック・グレイ少尉が問う。

「……」

「ま、喋るわけねーか。ガルド・ニール曹長。月面治安維持軍セレニティ・シティ駐屯師団所属ASパイロットさん、よオッ!」

そのパイロットのIDカードを読み上げた瞬間、思い切り顔面へ蹴りを入れる。

「少尉やめろ!」

もう一人の兵士がロックを羽交い絞めにする。ガルドの口から流れた血が部屋を舞う。

「……アンタら地球人が、月に居る人間の気持ちが分かるかよ……。月は工業都市なんて名目の、ただの強制労働所だ。人権もクソもねぇ」

ガルドがロックを睨みながら言う。

「知らねーな。言葉が分かるなら銃を向けるより先に話し合うべきだろ」

「……クソが」

「ま、後でたっぷり絞られるんだな」

そう言い残し、独房を後にする。



西暦2098年7月18日 5時00分

モスクワの海沖600km地点

空母 ロックスリー


≪ロックスリー、AS全機発艦どうぞ≫

「ブラック-1了解。AS部隊、全機発進」

ロックスリーから射出されたAS達は、月の重力に引き寄せられながら宙を漂う。

静寂がコックピットを埋める。

≪こちらキュリオス、陽……作戦を開始し……。……再び月治安維持軍と接敵中。火星艦隊らしき艦は見当たらない。注意しろ≫

戦闘中の所為か、月の影に隠れた所為か、通信が途切れ途切れになっている。

「ブラック1了解。あと5分で月面へ到着。今の所、敵を認めず。また敵から捕捉された様子も無し」

≪了解……≫

月に着く前からこの様子では、セレニティ・シティまでの移動中に本体と連絡を取るのは難しい、とラビは考える。

それまで我々12機のASは完全に孤立無援という事だ。

 全機が着陸態勢に入る。ここまでは何もなく順調だ。

脚部のスラスターを吹かせ、月面に降り立つ。

一面が灰色の世界。

「各チーム、行動開始」

≪≪≪了解≫≫≫

3チームはあらかじめ設定された降下ポイントから、それぞれのルートに従って進んでいく。

ラビは一度カメラをサーマルモードに切り替え、空を見上げる。画面一面が真っ青に包まれる、特に何の反応も無い。

例の無人機に映らなかった船。あれが気がかりだ。

先行したレッドチームの後を追い、セレニティ・シティを目指す。


 現在月面には12の都市がある。月面にあるクレーターを利用し、ドーム状の天井で覆って人の住める環境を作っている。

中でも巨大なのが、晴れの海にある“セレニティ・シティ”、静かの海にある“トランキィ・シティ”、そしてモスクワの海にある“モスコ・シティ”の3つだ。

それぞれの都市間は宇宙船や、一部近隣の都市同士は地下鉄道で繋がっている所もある。

人類が宇宙を目指してから、月では主に宇宙艦の建造や、それに使用する資源の採掘が行われてきた。

最初は選ばれた専門家達によって行われていたが、次期に地球から溢れた人間を移民させ労働者として働かせた。

それらは社会問題となっては有耶無耶にされ、その繰り返しであった。宇宙開発において、必要な力(犠牲)だったのだ。


≪レッドリーダー。予定通りモスクワの海北部を通過。モスコ・シティの偵察はブルーチームに任せ先行します≫

「了解。ブルーチーム、偵察後ブラックチームに合流しろ」

≪了解。モスコ南部より進入します≫

「イエロー、そちらの状況は?」

≪……≫

ザッザッという短いノイズだけ返信が来た。

無線を一瞬だけ開き、無線に出られない状況を差す。

「イエローチームが交戦中かもしれない。ブラックはイエローに合流する」

≪レッドリーダー、了解≫

≪ブルーリーダー了解≫

「ブラック2,3。イエローの援護に向かうぞ」

≪≪了解≫≫

イエローチームが降下したモスクワの海東部へ、ラビ達ブラックチームも向かう。

 少しジャンプしては着地を繰り返し、モスクワの海東側に居るイエローチームと合流する。

イエローチームのAS達が、丘の影に寝そべり、丘の向こうを観ているのが分かった。

1機がこちらを向き、発光信号を送ってくる。

「テキカン3、カセイカンタイ ト スイソク……」

送られてきた信号を解読する。

そのASがラビから見て左斜め上を差す。

すぐにカメラをサーマルモードに切り替え見上げると、そこには赤く表示される熱源が3つ表示された。

「あれは見間違いじゃなかったか……」

ラビも機体を寝そべらせ、丘の影に機を隠す。

危険ではあるが、コックピットハッチを開け、身を乗り出す。

≪隊長、危険です!≫

直接回線で無線が入る。

「構うな」

双眼鏡を取り出し、その艦を視る。

恐らく背後をこちらに向けている。巨大なスラスターがこちらを向いている。

どの艦も船体下部には、副砲と思われるものが1門、対空機銃らしきものが2門確認出来る。

3隻とも同型艦の様だ。

双眼鏡に内蔵されたカメラで写真を数枚撮り、コックピットへ戻る。

どうしたものか……。

≪ブラック1、奇襲を仕掛けますか、それとも迂回して……≫

その時であった、3隻の内1隻が強力なレーザー砲を発射し、辺りが一瞬白くなる。

「なんてこった、狙撃はコイツらがやっていたのか! 一気に叩くぞ! 全機エンジンに火を入れろ!」

≪≪≪了解!≫≫≫

カメラのモードを変更し、サーマルで感知した熱源を通常のカメラ映像に合成してモニターに表示する様に切り替える。

ASのスラスターを吹かせ、月面から飛び立つ。


「艦長! 真後ろから、アメリカのAS反応! 数6!」

「なにィ!? 艦を転覆させて、上空防御態勢へ!」

「了解ッ」


火星艦が船を転覆させ、対空機銃が浴びせられる。

「レーザー砲に当たるんじゃねぇぞ!」

≪了解!≫

「転覆させたという事は、艦橋が丸見えという事だろ!」

砲火を潜り抜け、敵艦の艦橋真上に取りつき、マシンガンを叩き込む。

巨大な爆発が、一瞬にして敵艦を溶かす。

≪流石リーダー!≫

「あの狙撃していた船を落とすッ!」

≪≪了解!≫≫

その時、もう1隻の主砲がASを捉える。

≪しまった……≫

そう言った時には既に遅く。

≪アロックゥ!?≫

「クソッ!」

瞬く間にイエロー2の機体が爆散し、消え去る。

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