第8話 薬
「ただいまー」
「あら、トーヤさんおかえりなさいってどうしたんですかその頭?」
うん、リューカルさんが驚くのも無理はない。だって今の俺の頭、包帯でぐるぐる巻きだからなぁ。
仕事中に頭上からたっぷり物の入った段ボールが落ちてきて直撃だ。不幸中の幸いか、血が出るだけで済んだが……いや本当に下手したら首グキィで死んでいたかもしれないからゾッとする。
職場で救急車を呼んでもらい、ガーゼ張って包帯ぐるぐる巻きにされたという訳だ。ありがたいのが、上司から今日はそのまま帰宅してもいいという許可が出たということだ。
その事をリューカルさんに伝えると、彼女は何かを思いついたかのように冷蔵庫を開け覗いたかと思うと……入れた覚えのない青い液体の入ったペットボトルをおもむろに出し、突然の行動に茫然としている俺の頭に
「そぉい!」
「ぶふぉっ!?」
――その液体をぶっかけた。え、何してんのこのドラゴン!?
そしてその掛け声で頭にぶっかけたの完全にあの笛の漫画意識しただろう!ちょっと顔赤らめてんじゃないよ!
そう抗議しようと思ったのだが、それ以上の異常事態が、俺に襲った。
「あれ?痛くない?」
「そりゃそうですよ。普通より効果のあるハイポーションですからね。」
色々突っ込みたいところはあるが、とりあえずまずは傷の確認だ。
包帯を取り傷口に手を当て……うん、全く痛みがないな。というか傷がそもそもなくなっている?
本当に治っているみたいだな。凄いなポーション。いや、ハイポーションか。
……リューカルさんの持ってくるもの一々"ハイ"が付いてない?偶然?
「えっと、リューカルさんありがとう。」
「いいんですよ。出番がないと思ってたポーションの出番があってよかったです。あれですね、備えあれば患いなしですっけ?」
「うん、それで正しいんだけどさ。まずさ、何でペットボトルに入ってるの?」
勝手なイメージだが、ポーションと言えばこう、フラスコ状の容器に入っているイメージなのだが。もしくは瓶だな。間違ってもペットボトルに入っているなんて思いもしなかったのだが。
「えぇ、確かにフラスコに入ってましたけどこっちのほうが便利じゃないですか。冷蔵庫で冷やすにしても丁度いい形ですし。」
「ポーション冷やすの?」
「その方が日持ちするんで。」
ポーション、賞味期限あるんだな。
でもそれでも容器に入っている状態のポーションが見たいと頼んでみたら、リューカルさんは懐から青い液体の入ったフラスコ瓶を取り出した。
「え、今どこから出したの?」
「収納スキルからですけど?」
おおう、異世界。
「ちなみにこのポーションの入っていたフラスコ瓶。実はスライムが好んでよく入り込むんですよ。」
そう言いながら再び懐から今度は空のポーション容器を取り出したリューカルさんは、それを床に置いた。その床に置かれたものに反応したのか、ロンバの上で戯れていたスーさんが物凄い勢いで入り込んだ。思っていた入り込むと違うな!今までそんなスピード見せなかったよなスーさん。
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「完全に傷が治ったトーヤさんですが、こう思ったんじゃないですか?ポーション万能じゃないのかって。」
「え?違うの?」
まさしくそう思っていた。完全治療まで何日間もかかるであろう傷を瞬くまで完治させたのだ。万能と思わずして……だけど違うんだな。
「ポーションは傷は治せますが、病気までは治せないんですよ。魔法も毒や麻痺は回復できますが病原菌は殺せません。」
「そっちの世界は薬はないの?」
「あるにはあるんですけどね。ハッキリ言って街に出回っているものはあまり良い物ではありません。気休め程度ですね。そして割高です。」
効く薬もあるのだが、材料費が馬鹿にならない上、調薬師も少なくそういうのは王族とか貴族が持つ者らしい。そのため病気が原因で亡くなる人も多いのだとか。
「それに比べてトーヤさんの世界の薬は素晴らしいと思いますよ。誰でも購入することができて症状に合わせて種類がありますからね。はー羨ましいですよ。」
薬の種類は数えだしたらキリないよなー。
風邪薬だけでも、喉から鼻から熱からで違うし……科学の力もそうだが薬師ってスゲーな。
さて、リューカルさんに助けてもらったのだからお礼に何かしなくてはな。リューカルさんは遠慮しているようだが、ハイと名の付くポーションを使ってくれたのだ。いい値段が絶対するはずだし、何かしないと気が済まない。
「あ、じゃあ……目薬をお願いします!何かこう、スースーする奴!」
後日、俺の送った目薬をリューカルさんは嬉々として早速眼に点し……"オホーッ!!"と奇妙な奇声を上げていた。あ、満足ですかそうですか。
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