第7話 ゴブリン

 今日も今日とて床の掃除に勤しむお掃除ロボットのロンバ。そしてその上には機嫌の良さそうにぽよんぽよんと弾むハイスライムのスーさん。命名は俺だ。

 一見、スーさんは何の仕事もしてないように見えるが、その実、体の一部を職種のように伸ばし平面の掃除しかできないロンバの代わりに本だとか、皿だとか、はたまた冷蔵庫などを綺麗にしてくれている。

 本や皿は体の中に取り込み、洗浄。冷蔵庫のような大きなものは拭き掃除をしている。最初本を洗われているときは焦ったよ……だってスライムだもん。中身液体みたいなものだからびちょびちょになるかと思ったんだよ。だが、予想に反して本は一部の汚れも埃もなくまるで新品かの如きだ。誤ってつけてしまった本の折り目もぴったり元通りになってる。ハイスライムすげぇ。


 そんな1匹と1機を尻目に俺とリューカルさんは執筆活動に勤しんでいた。俺が今書いているのは、剣と魔法の異世界ファンタジー。それも序盤の序盤だ。対するリューカルさん(いや、対決しているわけじゃないんだけども。)は、学園ラブストーリーを書いているのだとか。導入として頭に米粒付けた主人公はどうかと聞かれたが、全力で止めたほうがいいと進言しておいた。どうやって頭につくんだよ、米粒。

 俺の方は、主人公が最初の敵と相まみえるのだが……スーさん見てるとスライム相手に俺TUEEEさせるのはちょっと気が引けるので、スライムと対を成す最弱最強候補ゴブリンを出すとしよう。


 俺の世界で言うゴブリンのイメージは、臭い汚い(色々と)危険の3Kを兼ね備える魔物だ。緑色の肌をして尖った鼻にまたの名を小鬼と呼ばれる様に子供ほどの小さな体躯。かと思えば大人程の筋力を持った奴だ。

 極めつけは、オークに並んでムフフと言うか、グヘヘな展開に用いられる事が多いよね。俺がそういったものを読んでいるか読んでないかはまぁ、語る意味はないな。

 さて、こんなゴブリンだが、やっぱりと言うか何というか、スライム同様に作品によっては本当に優遇さが違う。最弱の1柱だからこそ最強の主人公または主人公の相棒として作品を盛り上げる存在でもありうる。俺もその手の話は嫌いじゃないし書こうとも思っている。ま、今回は無残に散る方だが。


 そんなゴブリンは、リューカルさんの世界ではどういう存在なのだろうか。近い存在のオークは確か、基本的には同族の雌を愛す。しかし、異端者はいて異種族の女を犯したら局部切り落とされる。だよな……自業自得とはいえ、恐ろしい。

 ゴブリンにもそんな一面があるのだろうか。聞いてみると……


「ゴブリンですか?あぁ、彼ら優秀ですよね。」

「優秀?人とか襲わないの?」

「襲う個体もいますけどね、共存を望むゴブリンのほうが多いんじゃないですかね。……友好的なゴブリンは町とか村の近くに集落を作ります。」

「一緒に住むわけではないんだ。」

「基本、魔物ですからね。人間に襲われないとも言えませんから。」


 人間からしても友好的とはいえ魔物と同じ拠点で夜を共にするというのは抵抗があるのだろう。それはゴブリンからしても同じか。極端な話、ゴブリンから見たら人間も魔物だからな。


「ゴブリンは知性は人間に劣りますが、体力は違います。ですので、それを売り込んで単純作業を主にこなします。田畑を耕したり、水を汲んできたり……ですかね。」

「アルバイトみたいだな……え、報酬は?」

「食べ物ですかね。ですが、それなりに賢い個体はお金を欲しがります。そんで自分を着飾ります。」

「着飾るの!?」


 お金をもらうというのはまだ理解できたが、その使い道は着飾ることなのか……意外だ。てっきり賢い個体と言うのであれば、人間の使うような道具とか本とかを望むと思ったんだが。


「おや、その様子だと納得してないご様子?ですがまぁ、分かる気がしますよ。数云年前までトーヤさんの世界の本にあるような汚い姿だったんですよ。」

「あの、リューカルさん?云年前って?」

「忘れたんですよ、言わせないでください恥ずかしい。……ある時、ゴブリンの中からゴブリンロードが産まれたのです。」


 ゴブリンロード……つまりはゴブリンの王か。


「そして生まれたゴブリンロードは己の姿を見てこう呟きました。


"うわ、余の姿、もっと輝けるんじゃね?"


――と。」


 軽いな、ロード。


「そこからゴブリンたち(一部)の美意識はガラリと変わりました。集落では湯あみは絶対。ある者は服を着、ある者は靴を履き。またある者はつけまを。」

「つけまあんの!?」


 そこ一番の驚きなんだが!?んでゴブリンがつけるの!?想像できねぇ……


「つけまは大抵、貴族の買うものなんですけどねー必死にお金をためてつけまを装着したゴブリンは他のゴブリンから羨望の眼差しで見られるんですよ。」

「ワンランク上の存在……的な感じ?」

「そうですね。知恵のないゴブリンも美しいのは凄いというのは分かりますが、如何せん、お金が理解できてませんからね。やるとするなら綺麗な石見つけてそのままアクセサリーにするくらいですかね。」


 異世界のゴブリンは、俺が思っていた以上に見た目に気を使っていたようだ。違和感がぬぐえないが、それこそがリューカルさんの世界の中では当たり前なのだろう。

 ……ふむ。そんな話を聞いたら出してみたくなるじゃないか。おしゃれなゴブリン。出してみようかな。



「ところで、リューカルさん。その髪留め似合ってるね。」

「えっ!?気づいてたんですか!?」

「いやまぁ、毎日顔合わせてますし……」

「もー早く言ってくださいよー!気づかれないのかと思ってましたって!」


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読んでくれてありがとうございます!


次の話のテーマは『薬』です!


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