カキステ
神無月 紗良(Saara)
かんづめ
どこを見渡しても真っ暗。
狭すぎて、身体も満足に動かせない。
壁をつついてみる。金属質の嫌な音が響く。
両手を広げて、壁を伝わせてみる。この部屋はどうも丸いらしい。
どうやら、缶詰の中に詰められたみたいだ。
私は。
なんとかして、この缶詰の中から脱出したいのだが、
あいにく私は何も持っていないし、
脱出する策を思いつくわけでもない。
身動きが取れないことに、不快感が募るのみ。
突然、缶詰がガタンと揺れた。
鳴り響くモーター音。定期的に揺れる缶詰。
私は運ばれているのか?
そのうち、揺れと音は止まる。
そして突如として、蓋が空いた。
蓋から顔を出すと、そこは朱と橙が混じりあった空で、
腕が無く、顔にぽっかりと穴の開いた猫背の巨人たちが闊歩していた。
下をのぞき込んでみるが、あまりにも高すぎて、陸地が見えない。
どうやら、この缶詰は空中に浮いているようで、
つまり私は身動きが取れないのだ。
私が途方に暮れていると、巨人の一人が私に興味を持ったようで、
その巨人が私の方に向かって歩いてくる。
私は怖くなって、缶詰の中に身を隠したのだが、
巨人は身体を大きく曲げ、その缶詰を自分の顔の穴に通してしまった。
その時の私は怖くて怖くて、ずっと目を瞑っていて、
そのまま、眠りに落ちてしまった。
眠ってる間、私は夢を見ていた。
私は知らない屋敷の一室で一人、紅茶を飲んでいて、
その香り、その趣きを味わいながら、目の前に広がる庭園を眺めていた。
その庭園に咲く花はとても不思議な色をしていて、見れば見るほど吸い込まれそうで、
私は今すぐにでもお茶をやめて、その庭園に向かいたかったのだが、
私の足元に群がる腕たちが私のドレスを引っ張るし、
天井からぶら下がる腕たちも私のドレスを引っ張って、
私は身動きが取れなかった。
だから私はお茶を飲みながら庭園を眺めるしかなかったのだけれど、
だんだんそれだけである事に我慢が出来なくなって、
私はドレスを脱ぎ捨てて、庭園に走った。
それでもなお足を引っ張る腕を蹴り飛ばし、
私の行く先を遮る腕を掻き分け、
私は庭園にたどり着いた。
その庭園は、私が今まで訪れたどこよりも美しくて、
庭園全体が、私を優しく包み込むようで、
気付けば私の身体もどんどんと溶けて行っている。
なんだかそれがとても心地よくて、ずっとその感覚を味わっているうちに、
私はただのドロドロになってしまった。
そこで私は目を覚ました。
いつの間にか私は缶詰の外に出ていて、地に足がついている。
すこし周りを見渡してみると、かなりの時間が経っているようだ。
空は灰色、地も灰色。地の色と空の色はほとんど同化していて、
もう少し注視してみると、やはり灰色になった巨人たちの死体が、
あらゆるところに散らばり倒れ重なっているのであった。
地面に触れてみると、少しザラっとしていて、砂っぽい。
砂を掬い上げてみる。粒子がとても細かく、口で一吹きしたら、すぐに消えてなくなってしまった。
とにかく私は、缶詰から出られたのだ。
私は踊った。踊り続けた。
やっと解放されたのだと。
私は踊り続けた。
やがて私が踊っていることに気づいた生きている巨人たちが、私に興味を持ち、私に近づいてくるので、
私は巨人たちのためにも踊ってやった。
脚が折れても踊った。私の脚から流れた血が、灰色の地に色を与えた。
全身から血が流れても私は笑顔で踊り続けて、
やがて私は粉になって、この世界の砂と一緒になった。
カキステ 神無月 紗良(Saara) @Lie_Humid
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。カキステの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます